デジタル推進事業 技術的課題解決ヘ向けたPoC 物理検層データを用いた
岩相自動推定(物理探査分野)

物理検層データを用いた
岩相自動推定(物理探査分野)

「専門家の知見」を機械学習によりモデル化する

POINT
機械学習の活用によってコストのかかる「岩相判定」の自動化を目指す
専門家の経験・判断基準をいかにモデル化するかが重要
地下評価技術における機械学習適用は野心的でチャレンジングな課題

岩石の情報を「岩相」として記録することの意味

 地下深くに存在する岩石がどのようなものかを知ることは、石油探鉱において非常に重要です。特に海や川の砂粒が堆積・固結してできる砂岩は、私たちの身の回りにあふれたポピュラーな岩石でありつつ、また石油探鉱において重要な貯留層となる岩石とされています。一方、一口に砂岩と言っても、堆積環境等をはじめとする複数の要因によって多種多様な見た目や状態を呈しており、砂と泥の比率や堆積構造によって貯留層として適しているものと適さないものが存在します。したがって、砂岩が地下のどこに、どのような状態で分布しているかを知ることは、石油の賦存状況を把握するのみならず開発計画上のリスクを低減するためにも非常に重要な情報といえます。
 地下の砂岩の様子を知る方法として、石油探鉱では物理学を用いた様々なアプローチが試みられています。しかしこれらの多くは、対象となる岩石の物理特性を間接的に反映した情報を得るに過ぎません。複雑な砂岩分布が想定される場合に砂岩の状態を地質学的記録として記述するには、岩石を物理的な特性のみならず、堆積環境や見かけの特徴をも加味した「岩相」として解釈する必要があります。これには専門家の知見を背景とした目視による「岩相判別」が必要である一方、直接岩石を採取し、専門家が観察・判別する作業には大きなコストが伴います。したがって、機械学習を用いた岩相判別モデルを構築することにより、これらコストの低減や判別の一般化が期待されています。

コア写真に基づいて作成された岩相ラベルの例

「岩相」を判別するのはなぜ難しい?

 今回実施した本邦石油開発会社との共同研究では、複雑な砂岩分布を呈する開発鉱区において物理検層データを用いて岩相を自動判別することを目指しました。物理検層とは、測定機器を吊り下げる形で井戸の内部の地下数百~数千メートルの深さまで挿入した後、それを巻き上げながら測定を実施し様々な物理的測定結果を連続的に得る調査手法です。物理検層データには砂や泥の存在、孔隙率、岩石密度などを示唆する情報が含まれており、それらのプロファイルを手がかりとして地下の岩石の物理的性質を直接目で見ることなく知ることができます。
 今回の共同研究においては、物理検層データを材料データとし専門家が解釈した岩相を「答え」とする機械学習モデルの構築を目指しました。物理検層データはあくまでも岩石の物理的特性が反映されたものであり、砂と泥の様子や堆積構造の連続性などから専門家が視覚的に得た情報を加えた判断によって与えられる「答え」と直接リンクするものではありません。したがって、岩相判別モデルの高精度化にはこの判断を模倣するような仕組みを構築する必要があります。専門家が岩相の判別をするときにどこに着目しているのか、また岩相を特徴づける要素はどの物理検層データに現れているのかを調べるため、試行錯誤的にモデル構築作業を進める必要がありました。
 下の図にテスト用の井戸の検層プロファイルと予測結果を示します(赤:真の岩相、青:推定された岩相)。構築した機械学習モデルを検証した結果、砂または泥が一方的に卓越する岩相の区間においては比較的良好な判別結果が得られた一方、砂と泥が混在している中間的な性質の岩相においては予測精度が低下するという結果が得られました。これは、視覚的には識別され得るような砂と泥の混ざり方の特徴が、物理検層データから抽出されていないことなどが原因として考えられ、砂と泥の様子などの物理検層データから得づらい情報をモデル内部でいかに抽出するかが課題となりました。

性能評価テスト結果の例(物理検層ログ)

石油探鉱技術と機械学習のこれから

 地下評価におけるデータ観測・収集は高コスト・高難度のものが多いため量や質が常に十分であるとは言えず、また得られるデータも実験室中で得られるものと比べて大きな測定誤差を含んでおり、これらがモデルの高精度化を妨げる一因となっています。一方で地下の地質構造を正しく把握するためには、今回の岩相判別のように専門家の知見を要するような属人的で高コストの作業が多く必要であることも事実です。人の知見を強く要求しないような、いわゆるルーチン作業を機械学習で代替することが可能となれば、専門家のリソースをより創造的な作業に充てられることが期待されます。本共同研究をはじめとするPoC(概念実証)はその実施プロセスにおいて機械学習の可能性とデジタル技術の知見を与えています。最終的には、PoCの積み重ねによって確立したデジタル知的基盤と地質学・地球物理学における理論や経験則を組み合わせ、現実的な活用シーンに適うような機械学習技術を開発することを目指しています。

技術部探査技術課
(併)デジタル推進グループデジタル技術チーム
石鍋祥平
2016年入構。
物理探査船グループデータ処理チーム(当時)を経て2020年より現部署(技術部探査技術課)に所属。
2018年よりデジタル推進グループ デジタル技術チームに併任。

※所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。

デジタル推進事業 技術・活動紹介の一覧へ戻る