デジタル推進事業 技術的課題解決ヘ向けたPoC 開発計画最適化(油層分野)
開発計画最適化(油層分野)
最新のデータ分析技術で開発計画策定を効率化
- POINT
- パートナー企業へ貢献できる貯留層評価技術を求めて
- シミュレーションのワークフローを最適化
- 経験的な判断をデータ分析で客観的に評価
より早く、より正確に、地下の流体挙動を予測する
石油や天然ガスがたまっている「貯留層」内部の挙動を適切に予測することは、油ガス田の開発プロジェクトにとって極めて重要です。どこに井戸を掘削するか?各井戸でどのくらい生産や圧入を行うか?という操業計画を最適化することにより、経済性を最大化することが求められるからです。
通常、地質や貯留層工学の専門家は、(1)貯留層の数値モデルを用いた流体挙動のシミュレーション、(2)数値モデルの作成が難しい場合に行う測定データからの直接解釈、という2つのアプローチで貯留層評価を行います。近年、深層学習を中心としたデータ分析技術が著しく進歩しています。そのためJOGMECでは、これら2つのアプローチを、再度見直す取り組みを行っています。より早く、より正確に操業計画の策定を行うことが、事業パートナーの産油国や本邦民間企業への貢献であると考えています。
2つの貯留層評価アプローチ
データ分析でシミュレーションのワークフローを最適化する
アプローチ手法(1)によるシミュレーション作業の主な2つの工程は、生産履歴を再現できるようにモデルをチューニングする「ヒストリーマッチング」と、生産量を最大化するように井戸配置や水圧入計画を策定する「開発計画の最適化」です。これらの作業では、岩石・流体物性や検層・物理探査といった様々な種類の地下情報を統合して作成された数値モデルのパラメータを変化させ、その度にシミュレータで計算をするという試行錯誤を繰り返すため、膨大な時間を要します。しかし、ある程度のケース数を行うと、どのパラメータを変化させると目的の結果を得られそうか分かってきます。そのため、次に入力するパラメータの組合せを見て、シミュレーションを行うべきか判断する「代理モデル」と呼ばれる機械学習を用いることができます。また、ヒストリーマッチングで得られた結果全てを統計的に分析することで、生産予測の不確実性の幅を評価するといった技術もあります。
JOGMECでは、民間企業と進める評価スタディを迅速かつ正確に行うため、このようなデジタル技術を積極的に導入しています。最近では、大学やサービスカンパニーが開発する最新手法の情報を集めるとともに見極め、時には独自開発も試みながら、ワークフローの更新を行っています。
CO2-EORの油層シミュレーションの図。
複雑な物理化学現象を取り扱うため、正確な数値モデル作成が求められる。
データ分析で経験的な判断を客観的に評価し、生産予測の確度を高める
地理的な制約などで十分なデータが得られず、貯留層の数値モデルが構築できない油ガス田では、アプローチ手法(2)による、地下から得られたデータの直接的な分析が役立ちます。これまでは経験的に下していた判断を、データ分析結果を基に客観的に行うのです。例えば、水を圧入している油田のケースを考えます。これまでは、ある井戸から水を圧入した場合、貯留層の中で押し出された油が近くのどの井戸からどのくらい生産できるかを経験的に推測し、操業計画を策定していました。しかし、周辺で水圧入が既に行われている場合、圧入データとそれに対する生産データを解析することで、どの方角に水が流れやすいかを推測することができ、経験的な判断を客観的に裏付けることができます。さらに、検層データの形状から岩相のつながりを推定する技術などと組み合わせることにより、その客観性は高まり、確度の高い生産予測になることが期待されます。
このようなデータ解析技術は、これまでも多く提案されてきました。しかし、近年の技術進歩によって手法の選択肢が増えているため、JOGMECではデータ解析技術の情報収集や適用性の評価を進めています。
JOGMECのエンジニアは、コーディングを自ら行い、機械学習などデータ分析技術の適用を試みている
- 技術部EOR課
(併)デジタル推進グループデジタル技術チーム - 森下諒一
- 京都大学大学院工学研究科修了。
企画調整部を経て、貯留層技術者としてCO2-EORや低塩分濃度水攻法といった
EORの産油国共同スタディ、データサイエンスのE&Pへの適用、CCSの地下評価を担当。
※所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。
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