デジタル推進事業 人材育成・情報発信 「グリーン×デジタル」
スタートアップ企業との連携

「グリーン×デジタル」
スタートアップ企業との連携

「脱炭素 × デジタル」を進める
エネルギー業界

POINT
石油ガス業界の変化 スタートアップ企業との連携
スタートアップ企業との連携課題を乗り越えて
日本のエネルギー業界とシリコンバレー

「グリーン × デジタル」欧米スタートアップ企業

高梨 ここ数年、世界的な気候変動問題の高まりや、欧米石油メジャー企業等に対する投資家からのESG(環境・社会・企業統治)対応要請が顕著になり、石油ガス業界を取り巻く環境は変化し続けています。こうした環境下で、石油ガス業界はどう変化しようとしているのでしょうか。
 新型コロナによる経済的ダメージから回復する策として欧州や米国、日本が掲げたのは、脱炭素化(グリーン化)とデジタル化の推進政策でした。次世代の持続可能な未来に貢献する環境技術とデジタル技術の産業育成を支援していくものです。各国政府が掲げるカーボンニュートラル施策、政府系基金やESG投資の勢いを受けて、また環境や社会への貢献意識が高い世代の増加により、「グリーン」と「デジタル」の両輪を動かすスタートアップ企業数は世界各地で増加しています。特に、米国シリコンバレー等の社会環境意識の高い地域ではその動向が顕著で、脱炭素化とデジタル化に向けた技術開発が進んでいます。こうした技術は「グリーンテック」や「クリーンテック」と呼ばれ、米国Cleantech Group社の「Global Cleantech 100」というレポートでは、今後5~10年で市場に大きなインパクトを与えるスタートアップ企業、持続可能な成長に寄与するスタートアップ企業100社が毎年発表されています。直近レポートの地域別割合は、6割が米国に集中しており、欧州・イスラエルが3割、アジアが1割未満と続いており、欧米と比較すれば、日本にはまだこうした企業は少ないといえるでしょう。

石油ガス業界の変化 ― スタートアップ企業との連携

高梨 これらのスタートアップ企業の技術領域は実に多様です。米国シリコンバレーは、電気自動車で有名なテスラ社が拠点としている地域ですが、電気自動車向けの充電技術をはじめとし、再生可能エネルギー技術、空気中や工場等からの二酸化炭素(以下「CO2」)回収技術、CO2を回収し建材や液体燃料等の有価物に変換するCCUS(Carbon Capture, Utilization, and Storage:CO2回収・利用・貯蔵)技術等の環境技術を有するスタートアップ企業が多くみられます。
 石油ガス業界になじみのある領域としては、石油ガス製造プラント等の故障予兆検知技術、電力需要予測、センサデータの集積・深層学習解析による製油所プラント等の運転効率化技術、ドローンや衛星を活用したメタン漏洩検知技術等があり、欧米の大手エネルギー・電力企業は、各社の想定する将来像に応じて、各スタートアップ企業への投資や事業連携を進めています。こうした動きは今後のエネルギートランジションを見込んだビジネスモデルの検証や、自社保有技術の拡充、ポートフォリオの拡大もしくは改編の準備だと考えられます。これらの動向から、石油ガス業界も「グリーン × デジタル」の視点で変化していこうとしているといえます。足元の事業の操業効率化を進めるデジタル技術適用を目指し、同時に脱炭素社会につながる新技術領域を取り込もうとしていると考えています。

スタートアップ企業との連携課題を乗り越えて

末廣 JOGMECのデジタル推進事業では、日本の石油ガス開発企業のプロジェクト上の課題を解決するデジタル技術開発の支援を行い、資源開発技術の高度化や、国際競争力の向上に繋げていくことを目指しています。その目的のために、本来はデジタル技術についても日本企業の力を活用していきたいという願いはあるものの、欧米で圧倒的かつ多様に成長しているスタートアップ企業との連携検討や動向の把握は重要と考えており、JOGMECでは複数のツールを用いて、これらの動向を調査してきました。
 これまでに感じているスタートアップ企業との連携課題としては、シリコンバレー特有のビジネスモデルが、資源開発事業になじみづらいという点があるでしょう。石油ガス開発は、資源の探査・開発・生産に至るまでの事業規模が大きく、実際の事業の一部に新規技術を導入するトライアルはそう簡単には認めてもらえません。通常のスタートアップ企業は、技術製品開発を3ヵ月単位といった極めて短期間に行い、実際に試作品の適用検証を重ねて技術をアップデートしていく、失敗は速やかに判断し次の事業に移るといった特徴がありますが、こうしたトライアンドエラーの方法がなじみづらいというのは正直な感覚です。一方で資源開発事業の長いタイムスパンやリスク検討に寄り添うスタートアップ企業も増えており、海外との技術連携を進める日本企業担当者の方々は、様々な工夫を重ねてビジネスモデルの違いを超え、資源開発現場に適用するための技術開発を日々進めていると考えます。

日本のエネルギー業界とシリコンバレー

高梨 2019年に日本の石油ガス開発各社にヒアリングしたところ、多くの会社が業界を取り巻く環境変化に危機感を感じ、足元の事業の操業効率化と、脱炭素化に貢献する技術の両方を探されていました。またデジタル・トランスフォーメーションという言葉はビジネスモデルの大胆な改革をイメージしますが、実際に日本企業のご担当者とお話しすると、石油ガス上下流事業のビジネスモデルを短期間でドラスティックに変えていくのではなく、既存事業からの地続きで着実に事業を効率化したり、事業領域をシフトしていくべきと考えていることが分かりました。
末廣 デジタル化の取り組みを進める日本企業が注目するイベントも開催されました。2019年に日本のエネルギー業界数社が協力し、スタートアップ企業との連携を促進する目的で、「Cleantech × Japan 2019」というイベントが米国シリコンバレーで初めて開催されました。スタートアップ育成プログラムを提供するベンチャーキャピタルのPlug and Play社が主催し、厳選したスタートアップ企業10数社が参加、日本側は当時大手ガス会社CVCの方が電力・石油ガス業界35社のデジタル関係者をとりまとめられて、JOGMECも参加しました。
 このイベントは新たなプラットフォームとして米国側・日本側の双方から歓迎され、コロナ禍の2020年も「Cleantech × Japan 2020」がオンライン開催され300名以上が参加し、世界各地のスタートアップ企業と日本のエネルギー業界をつなぐ役割を継続しています。私たちJOGMECを含む複数社からのマネジメントメッセージと共に、JOGMECは日本側のリバースピッチにも参加して、「グリーン×デジタル」による持続可能な資源開発を追求するという新たな方向性を発信しました((注) 外部サイトYou Tube動画リンクあり)。その後本イベントで出会ったCO2をコンクリート等に固定化する技術を有するスタートアップ企業を日本企業に紹介させていただく事例も出てきましたし、徐々にですが、海外のスタートアップ企業との協業も今後増えていくものと期待しています。

「Cleantech × Japan 2020」Opening Remarks (Plug and Play社)

(注)You Tube動画リンク(これより先は外部サイトでありJOGMECが運営するページではありません)

「Cleantech × Japan 2020」 JOGMECリバースピッチ

(注)You Tube動画リンク(これより先は外部サイトでありJOGMECが運営するページではありません)

JOGMECの新たな取り組みと「グリーン × デジタル」

末廣 JOGMECは2021年4月に新たにカーボンニュートラル推進本部を立ち上げました。重点領域としては、資源開発に伴うCCS事業支援、さらに水素アンモニア事業支援になりますが、カーボンニュートラルを達成するにはCO2を地下に圧入処理するだけではなく、CO2を回収し、有効利用して有価物に変換する多様なカーボンリサイクル技術の導入も重要です。カーボンリサイクルやCCUS技術をはじめとして、現在ネガティブエミッションとして注目されている大気中のCO2を回収するDAC(Direct Air Capture)技術や、水素などの新エネルギーの領域でも多くのスタートアップ企業が活躍しています。
JOGMECは今後も「グリーン × デジタル」の視点で、世界各地のスタートアップ企業と日本企業をつなぐ役割を担っていきたいと考えています。

カーボンニュートラル推進本部 石油・ガス・CCSチーム担当調査役
CCS推進グループ 総括・国際連携チームリーダー
末廣能史
2012年戦略企画室長、2013年技術ソリューション事業グループ企画チームリーダー、2018年技術企画課長、2019年デジタル推進グループデジタル企画チームリーダー、2021年より現職。
カーボンニュートラル推進本部 石油・ガス・CCSチームサブリーダー
CCS推進グループ 総括・国際連携チームサブリーダー
髙梨真澄
ファイナンス支援にかかる環境社会影響審査、技術ソリューション事業、デジタル推進事業、技術企画課等に従事し2021年より現職。米国デンバー大学法科大学院修士(国際環境/資源政策)

※所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。

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