デジタル推進事業
技術的課題解決ヘ向けたPoC
シェール開発の謎の解明に挑む
AI技術(非在来型資源開発)
シェール開発の謎の解明に挑む
AI技術(非在来型資源開発)
シェール開発の謎を
解き明かすかもしれないAI技術
- POINT
- 従来の油ガス田の技術が通用せず生産量の予測が難しかったシェール開発
- AI技術を使うことでシェールガス・オイルの生産予測を高精度化
- 経験と勘に頼っていた開発手法もAIの助けで合理化へ
「シェール革命」から10年超 まだまだ課題が多いシェール開発技術
「シェール革命」という言葉が話題になってから10年以上経過した現在、北米では数多くのシェールオイル・シェールガスプロジェクトが稼働し、日々石油・ガスが生産され続けています。シェールオイル・ガスはシェール(頁岩)層という地層から生産されるもので、これまで一般的に開発されてきた油田・ガス田とは異なる種類の地質を対象とするため、開発に必要な技術も異なったものとなってきます。特に、生産量予測を計算したり、どのような開発の方法を取るかを事前に検討したりすることは、ビジネス面で重要な項目であり、その精度を上げることは技術者の使命といえますが、その部分もシェールオイル・ガスは従来と異なった技術が適用されています。
従来の油ガス田では、生産前にコンピューター上で作り上げた油ガス田モデルでシミュレーションを行うことで、数十年にも及ぶ将来の生産量予測が可能でした。一方、シェールオイル・ガス開発ではそうしたシミュレーション技術が十分には確立できておらず、既に得られている生産量の傾向をもとに将来の長期的予測を立てる「減退曲線法」という手法が一般的に用いられています。しかし、この手法では、生産前に長期予測を立てることや、生産期間が短い時点で精度の高い予測を立てることは困難です。
また、シェールオイル・ガス開発の特徴として、従来の油ガス田よりも非常に多くの井戸を掘削すること、また水圧破砕(フラクチャリング)という技術を用いることが挙げられます。水圧破砕は、掘削した井戸から高圧の水とプロパント(細かな粒状の支持材)を注入することでシェール層に亀裂を作り出し、石油・ガスの通り道を作り出す技術です。経済的に生産量を向上させるには、どの地点に井戸を掘削するか、またその井戸から注入する水やプロパントの種類・圧入量をどのように調整するか、対象地層ごとにケースバイケースでの対応が求められ、技術者の経験と勘が頼りになっており、誰もが最適な手法を短時間で導き出すことは難しいものとなっています。
ホワイトボックス型AIで目指す課題解決
こうしたシェールオイル・ガスについての技術的な課題の解決を目指していた我々は、日本電気株式会社(以下、NEC)が開発した「異種混合学習技術」に注目しました。従来一般的に用いられてきたAIでは機械学習等の技術を利用していますが、その解析内容はブラックボックス化されていて、解析結果に対する根拠を人間が解釈することは困難でした。一方の異種混合学習技術は解析結果の根拠が人間にも解釈・説明がしやすくなる、いわば「ホワイトボックス型AI」と呼べる技術です。異種混合学習技術では、入力された複雑なデータを、その背後に含まれる条件に合わせて自動で適切に分割・抽出し、それぞれの条件に沿った規則性を見つけ出し予測を導き出します。そのため、問題となっている事象において考慮すべき条件分岐とそれぞれに対しての予測を示すことが可能となるのです。このような予測根拠が示された解析結果は、経営判断においての納得感も得やすく、ビジネスへ活用しやすくなることが期待されます。我々はこの異種混合学習技術が、地質等の条件や開発手法の選択と生産量との定量的な関係性を導くことが難しいシェールオイル・ガス開発の課題解決には最適な手法であると考えました。
従来手法より高精度な結果を確認
JOGMECデジタル推進グループでは2021年よりNECとの共同研究において、ある北米のシェールガス田で収集されたデータを利用したPoCを実施しています。使用したデータは対象のシェールガス田で掘削された1,900以上の坑井についての、地質や掘削の条件、井戸の開発手法、ガス生産量などです。異種混合学習技術による解析では、データから対象ガス田における技術的・経済的に採取可能なガス量(究極可採埋蔵量:EUR)の予測を行い、さらにその予測を用いて経済的に最適な井戸の開発手法を推定しました。EUR予測については、従来手法である減退曲線法を用いて計算した場合と比較して、生産開始前の時点での予測でも精度を10ポイント程度向上することに成功しました。開発手法の推定についても、実際の操業実績と比較して経済性を10 ポイント以上向上させる手法を見出すことができました。また、予測根拠が示されるという利点を活かして、地質的な条件が生産量へ与える影響の大きさを地域ごとに考察するといったことも可能となりました。
今後は、実際のビジネス現場へと活用されることを目指し、さらなるシステムの改良等にも取り組んでいく予定です。
- デジタル推進グループ デジタル技術チーム
- 谷口大樹
- 2014 年入構。
技術部技術企画課、同部 EOR 課、事業推進部開発・生産課を経て、
2018 年よりデジタル推進グループデジタル技術チームに所属。
※所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。
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