デジタル推進事業 技術的課題解決ヘ向けたPoC インフラ設備健全性点検等に対するリアルハプティクス技術活用

インフラ設備健全性点検等に対する
リアルハプティクス技術活用

石油・天然ガス生産設備の
健全性点検に対する
リアルハプティクス技術活用

POINT
日本の最先端技術の石油・天然ガス開発事業への適用
地下にある「見えない」機器の運転状態を把握する
操業効率化への貢献
PROJECT
MEMBER

開発メンバー
JOGMEC
デジタル推進グループ デジタル技術チーム
河野裕人
株式会社INPEX
新分野事業ユニット コーディネーター
高木元太 氏
慶應義塾大学
理工学部 システムデザイン工学科 准教授
野崎貴裕 氏
千代田化工建設株式会社
地球環境プロジェクト事業本部
ChASプロジェクト部
エンジニアリングソリューション
プロジェクトセクション
日置輝夫 氏

異業種異分野の技術を石油天然ガス開発事業に適用する取り組み
JOGMEC 河野

 JOGMECにおける技術開発の手法は大きく分けて2種類あり、ひとつはJOGMECの技術者のもつ技術的知見や過去のスタディ実施を通して得られた知見、さらには自身が所有する分析機器を活かした研究です。もう一つは、本邦企業が保有する最先端技術の石油・天然ガス開発事業への適用支援で、いわゆる「ニーズ(石油・天然ガス開発事業者が抱える課題)」と「シーズ(課題の解決に資する技術)」のマッチングによる技術実証・適用を支援するものです。特に、デジタル技術は製造業をはじめ他産業での導入実績があるため、石油・天然ガス開発産業がこれらの適用事例から学べることは多く、より安全で効率的な操業を実現するためのヒントもあるのではないかと考えています。JOGMECが、本邦石油天然ガス開発事業者が抱える課題の解決を目的として2019年度から実施している「石油天然ガスの探鉱・開発・生産へのデジタル技術適用に関する研究支援事業」はまさに異業種異分野の技術を石油・天然ガス開発に適用する事業です。課題解決に向けた新技術の適用アイデアを募集しており、そのひとつとして今般株式会社INPEXからの提案である「石油・天然ガス生産設備の健全性点検に対するリアルハプティクス技術活用」を採択したものです。

操業効率化・高度化に向けた最新技術の適用に向けた取り組み
株式会社INPEX 高木 氏

 当社では2018年度から、探鉱・掘削・開発から生産、輸送といった石油・天然ガスのオペレーション全般における効率化および高度化に向けて、デジタル技術の適用も含め種々の検討を行っています。
 この一環として、人が感じる力触覚の測定・伝送・再現が可能なリアルハプティクス技術の油井への適用という研究テーマをJOGMECの研究支援事業に応募し、サッカーロッドポンプ(SRP)を用いた操業中の油井の地下に設置された生産設備の稼働状況や健全性、生産量などのパラメーターの微細な変化をリアルタイムで検知することを目的として、2020年度からJOGMECと共同で実証試験を実施しています。
 本技術の適用により、様々な地下事象が反映されている地上のモータ挙動の変化を鋭敏に捉えることが可能となり、ひいては新たな計測器となり得ることを期待しています。将来的には、本技術を掘削にも適用することで地層の変化や逸泥・抑留(*)といったトラブルの早期検知にも寄与し得る可能性があると考えています。
 本共同研究を通して、操業の効率化・高度化、安全性の更なる向上を図り、エネルギーの安定供給を目指しています。
(*)逸泥:掘削中に、掘りくずを地上に上げるために使用する泥水が地層中に失われる現象
   抑留:掘削用の鋼管やドリルビットが地下で引っ掛かり、井戸の中で動かなくなってしまう現象

図:サッカーロッドポンプの操業監視におけるリアルハプティクス(RH)技術適用

力触覚の数値化、伝送、再現を可能にするリアルハプティクス技術とその社会実装
慶應義塾大学 野崎 氏

 リアルハプティクスとは、電動機の電機的特性に基づき電動機に加わる力を推定し、対象となる物体の機械的特性を数値化する技術です。また、数値化された特性を活用することで、力触覚フィードバックを伴う遠隔操作システムや、器用で柔軟なロボットの運動を実現することが可能になります。弊学では2014年12月にハプティクス研究センターを設置、広範な産業分野への本技術の普及を推進し社会実装を進めている(*)ところですが、今般のJOGMEC・INPEXとの共同研究事業への参画を通して、これまでにない新たな分野での展開を図っています。
(*)①農業用選果・選別システムを手掛けるシブヤ精機株式会社様と共同で、作業者の運動データを活用した、軟弱な果物などの取り扱いが可能なロボットハンドシステムの開発②総合建設会社の株式会社大林組様と共同で、力触覚フィードバック機能を有する建設重機システムや遠隔地から左官作業等を実現する建設技能作業再現システムの開発 等

図:リアルハプティクス技術の応用例
参考情報:慶應義塾大学ハプティクス研究センター

デジタルオイルフィールドへのエンジニアリング会社の取り組み
千代田化工建設株式会社 日置 氏

 SRPによる採油にて、坑内(地下)状態を地上で把握できれば、生産最適化や計画外停止回避を含む設備の信頼性向上、多数あるSRP全体の信頼性と安全性も考慮した保全活動や投資最適化など、様々な効果が期待されます。下図a)は、設備管理目標の設定から、プロセスや設備特徴を考慮した状態監視・検査手法の選定・導入・効果検証による運用定着の一連作業から構成される「プラントの高度設備診断サイクルの概要」を示しています。下図b)は、本サイクルも含む将来的な設備診断のコンセプトを示しています。人財減少の中、DX化を含むリアルタイム性も具備した業務の仕組みとすることで、遠隔地に多数あるSRP等の採油装置の状態監視を効率的・効果的に実施できます。またAI等の活用で、設備状態とベテランの知識を共有知とすることで、安定・安全操業の仕組みを持続可能にできます。JOGMEC・INPEXとの共同研究事業への参画を通して、SRPの地上センシングによる坑内状態把握、すなわち対象プロセスや設備に合った各種状態監視センサによるデータとプラントの運転情報を遠隔で収集・分析し、さらに当社独自のプロセスや設備設計に関わる技術やノウハウ、デジタル技術も活用することで、本邦石油天然ガス開発事業者の操業支援に取り組みます。

図:プラント安定・安全操業に向けた設備診断のコンセプトとアプローチ

※所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。

デジタル推進事業 技術・活動紹介の一覧へ戻る