デジタル推進事業 技術的課題解決ヘ向けたPoC LNG船経路最適化
(LNGバリューチェーン)

LNG船経路最適化
(LNGバリューチェーン)

スパコンでも難しかった LNG 配送計算を実現

POINT
「デジタルアニーラ」が導き出す LNG 配送計画
条件に応じた配送ルート・LNG 受け入れ基地の最適化計算が可能に
LNG 需要が増加する東南アジアでの活用に期待

なぜルート計算は難しい? 経由地が増えると候補は指数関数的に増加

 点を結んで最短経路を求めるという問題。そう聞くと簡単そうに聞こえるかもしれません。しかし、コンピューターにとっては決して簡単に解けるものではないのです。結ぶ点が数箇所であれば人間の頭でもすぐに最短経路を見つけられるかもしれませんが、点が増えるごとに経路の総数は指数関数的に増えていきます。点が数十箇所ともなると経路は天文学的な数字となり、総当りで計算すると現在のスーパーコンピューターでも年単位の時間がかかると言われています。
 最近ニュースでも耳にすることのある量子コンピューターという技術は、これまでの技術では解くのが難しかった最短経路を求める問題や、条件に合致した組み合わせを見つけ出すような問題(これらをまとめて組合せ最適化問題と言います)を高速で解くことができると期待され、世界中で様々な企業・研究機関が開発を進めています。ただし、量子コンピューターはそのハードウェアの特性のため、液体窒素による冷却を維持しなければいけないなど、運用面での課題はまだまだ多く、商業用に実用化されてはいません。その一方で、現在一般的に使われているデジタルコンピュータを使って、組合せ最適化を解くという技術も開発が進められ、既に実際のビジネスに導入されつつあります。

さらに複雑な LNG 配送 ルートだけでなく受け入れ基地の計算も

 石油天然ガス開発の分野でも組合せ最適化問題は数多くあり、その一つが船による LNG の配送です。
 東南アジア諸国では数多くの LNG 開発プロジェクトが稼働していて、日本企業も数多く参画しています。その中でもインドネシア等の島国では、国内での天然ガス需要が高まっていることもあり、生産された LNGを狭い範囲でいかに効率的に配送するかということが課題となっています。短い配送ルートを見つけ出すことは当然その効率性を上げるための重要な問題となってきますが、実際の LNG ビジネスで考慮しなければいけないことはそれだけではありません。例えば、LNG を船から港に積み下ろす量は地域の需要や送り先の港に置かれたタンクの大きさを考慮して決めなければなりませんし、そもそも輸送に必要な LNG 船のサイズや数も、水深や港の状況を考慮しつつ経済性のよいものにしなければいけません。このように、LNG の輸送においては、非常に複雑な組合せ最適化問題を、ビジネス環境の変化に対応しつつ解いていかなければならないのです。

「デジタルアニーラ」が可能にした配送計算 インドネシアでの活用も視野

 そこで、我々JOGMEC ではインドネシアの島しょ部を対象として、船での配送を含む経済的に最適な LNGバリューチェーンを検討するプロジェクトを開始しました。そこで共に解析を実施したのが富士通株式会社でした。同社は、デジタルコンピュータで組合せ最適化問題を高速に解くことができる「デジタルアニーラ」と呼ばれる技術を開発し、既に物流や金融、創薬の分野で活用を進めつつあります。
 2019 年のスタディでは、2 箇所の LNG 生産地から周囲の島々十数箇所へ船で配送するというモデルを扱いました。そこでは、20 年間配送を行った場合にコストが最も少なくなるような、配送ルート、船の数・LNG タンクサイズ、配送先の港湾に設置するタンクのサイズの組み合わせを解析しました。その結果、これまでのように表計算ソフトなどを用いて人間が推定した時と比較して、約 12%コストが削減された組み合わせを発見することに成功しました。
 こうした成果を実際の LNG ビジネスに適用できるよう、現在も検討を進めています。数十箇所の港を含むような配送ルートを扱ったり、港ごとの個別の条件も含めたりするなど、より複雑なシステムを扱えるようになり、実際のビジネスに適用できることを目指しています。

デジタル推進グループ デジタル技術チーム
谷口大樹
2014 年入構。
技術部技術企画課、同部 EOR 課、事業推進部開発・生産課を経て、
2018 年よりデジタル推進グループデジタル技術チームに所属。

※所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。

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