デジタル推進事業
技術的課題解決ヘ向けたPoC
掘削トラブルの予兆検知
(掘削分野)
掘削トラブルの予兆検知(掘削分野)
掘削トラブルの発生予兆を
リアルタイムに検知する
- POINT
- 産官学連携のコンソーシアムを形成し、検知システム構築に必要な豊富なデータ数を用意
- 複数のAI手法を適用することにより、掘削トラブルの予兆検知の精度向上を目指す
- 掘削トラブルの予兆をリアルタイムに検知・発報することにより、事故の発生を未然に防ぐ
抑留トラブルによる時間的・金銭的な損失を防ぐために
石油・天然ガス開発における井戸の掘削作業では、ドリルパイプの先端に取り付けたドリルビットを回転・降下して、岩石を破壊しながら掘り進めていきます。その際、このドリルビットやドリルパイプが地下で引っ掛かり、井戸の中で動かなくなってしまう”抑留トラブル”が発生することがあり、復旧には数日程度の時間を要することが多く、場合によっては井戸を掘り進めることを諦め、廃坑することを余儀なくされてしまうケースもあります。また、併せて掘削リグの貸出料や人件費などが追加発生してしまうため、現場の操業者にとってはできるだけ避けたいトラブルの一つです。しかし、この抑留トラブルは突発的に発生するケースが多く、熟練の掘削技術者をもってしても未然に防ぐことが困難であることが知られています。
掘削作業に使用する掘削機器には、数多くのセンサが取り付けられており、掘り進めるスピードやドリルビットの回転数など掘削作業中には多くの掘削データが取得されます。JOGMECでは、これらの掘削データの中に短期的または長期的な”抑留トラブル発生の予兆”が含まれているのではないかと考え、AI技術を適用した抑留トラブル予兆検知システムの開発を2018年度より進めています。
抑留トラブルのイメージ
成果を効果的に得られるようコンソーシアム体制を整備
抑留トラブル予兆検知システムの完成に向けては、(1)質の高い掘削データの準備、(2)AIアルゴリズムを用いた高精度な予兆検知モデルの構築、(3)操業現場への適用に向けた伝送システムとユーザーインターフェースの準備など、多くのハードルがあります。特にモデルの構築過程においては、質の高い掘削データを数多く準備することが、予測精度の向上に不可欠となります。しかし、JOGMECは石油・天然ガス開発フィールドを保有しておらず、掘削データをほとんど有していません。そこで本プロジェクトでは、下図のような産官学のコンソーシアムを整備することで、多くのAIプロジェクトにおいても課題となるデータ量不足の問題の解決を目指すことにしました。
コンソーシアムの体制
本コンソーシアムは、JOGMECより国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)に業務委託の上、参加各社にてデータマネジメントプランに署名することで、成立しています。(1)質の高い掘削データの準備に関しては、地球深部掘削船「ちきゅう」を保有し掘削プロジェクトを実施しているJAMSTECのほか、本邦石油開発企業である石油資源開発株式会社(JAPEX)および株式会社INPEX(旧:国際石油開発帝石株式会社)にも協力いただき、2020年度時点で生産井73本分の掘削データを収集し、AIに読み込ませるためのデータセットを作成しました。(2)AIアルゴリズムの選定と予測モデルの構築に関しては、JAMSTECを中心に、AI技術に知見のある国立大学法人東京大学(新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻 和田研究室)および英国のエジンバラ大学の協力の下、さまざまなAIアルゴリズムに対してその性能評価作業が進められています。引き続き、これら掘削データに含まれる抑留トラブルの予兆を検知するためにAIプログラムの改良を進め、加えてコンソーシアムに参加している石油開発企業の掘削技術者のご意見も踏まえながら、モデル精度の向上を目指していきます。
操業現場での技術実証に向けて
3つ目のハードルである抑留トラブル予兆検知システムの操業現場適用に向けた準備作業は、株式会社先端力学シミュレーション研究所に協力いただき進められています。2020年度にはJAMSTEC保有の「ちきゅう」に設置の上、いくつかの掘削機器を作動させた際にセンサが取得したデータが本システムに伝送され、AIがリアルタイムにデータを計算、異常を示す発報がなされる一連のプロセスについて動作確認を実施し、成功裏に終了しました。現在は、技術の商用化を目指し、要素技術の特許出願等を行いながら、海外サービス企業等との協業に向けた調整を進めています。将来的には、これまで開発を進めてきた技術がサービス企業のシステム等に搭載され、本邦企業の掘削トラブル解消の一助となることに期待しています。
JOGMECでは、本プロジェクトで得られた知見を活かし、引き続きデジタル技術を適用した掘削作業の安全性向上に資する取り組みを継続してまいります。
リアルタイム抑留予兆検知システム稼働中の画面表示例
- デジタル推進グループ デジタル技術チーム
- 安部俊吾
- 2015年入構。
デジタル推進グループのほか、メタンハイドレート研究開発グループ・技術部を兼務。
ジオメカニクスおよび掘削分野を担当。
※所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。
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