クリーン水素・アンモニア バリューチェーン構築 クリーン水素・アンモニアに
関するキャリアーについて

水素キャリアーまとめ

クリーン水素・アンモニアのバリューチェーン構築にとって重要なキャリアーに関するまとめ

POINT
水素キャリアーそれぞれに特徴があり、多様なバリューチェーンの形が存在
実証に向けて課題・リスクがあるが、実現促進に向け JOGMEC が技術的・資金的にサポート

水素キャリアーとは?その課題は何か?

 水素キャリアーの候補には、主に液化水素、MCH(メチルシクロヘキサン)、アンモニアがありますが、それぞれ異なる特徴があります。
 液化水素は、水素分子自身によるキャリアーであり、冷やして液化(-253℃)することで体積を800分の1程度に削減し、高いエネルギー密度と輸送効率の高さを得られることが特徴です。一方で、低温にするため多くのエネルギーを必要とし、また低温での運搬や貯蔵の際には高度な技術や施設が必要となることから、液化水素の製造、輸送、貯蔵には高いコストがかかります。
 MCHはその分子内に水素を含んでいます。化学反応によりトルエンに水素を付加してMCHに変えることが可能です。MCHおよびトルエンは常温常圧で液体状態であるため、貯蔵や輸送において液化水素よりも安価で簡単に行うことができます。さらに既存の石油の輸送設備を利用できる可能性もあります。一方で、MCHから水素を取り出す際には多くのエネルギーが必要であり、また輸送の際には全体重量に対して水素を約6%程度強しか運べない、仕向け地で水素を取り出した後のトルエンを水素生産地に戻さないといけない、というような短所もあり、全体でのエネルギー効率が課題となっています。
 アンモニアは、製造が容易かつ比較的常温常圧に近い条件で液体状態での輸送や貯蔵が可能であり、液化水素、MCHと比較し貯蔵・輸送に必要なエネルギーコストが低いことが特徴です。しかし、アンモニアは毒性があるため扱う際には高い安全性が求められ、貯蔵や輸送においても細心の注意が必要です。アンモニアを水素キャリアーとして利用する場合は、輸送先でアンモニアを分解し水素を取り出す工程が必要となります。そのためにエネルギーが必要となり、現在もその技術開発が進んでいる段階です。

出典:各種資料を基にJOGMEC作成

商業化一歩手前の水素キャリアー

 実用化に向けた現状としては、様々な課題・リスクも存在します。液化水素に関しては、現時点では液化水素運搬船の実証は成功したものの商業的な海上輸送はまだ確立したとは言えない段階です。MCHについては、10,000tクラスのケミカルタンカーによる海上輸送の実証は終えており、こちらも実証という点では液化水素と同様ではあるものの、既存船が利用可能であるため、商業輸送自体には特段の課題は少ないともいえます。アンモニアに関しては、先の通り水素をアンモニアから取り出す技術開発が進んでいるところです。また、アンモニアは水素キャリアーとしてだけではなく、発電所での燃料として石炭と混焼して利用することも検討されています。アンモニアを混焼するバーナーの実証試験が完了し、現在JERAの碧南石炭火力発電所にてアンモニアの20%混焼試験に向けて準備をしている段階との認識ですが(注)、その他の石炭火力発電所への普及にはもう少し時間を有すると思われます。また、よりクリーンなアンモニアのバリューチェーンを目指すべく、アンモニア燃料によるアンモニアの輸送船も商業化に向けて開発が進められています。

(注)出典:碧南火力発電所のアンモニア混焼実証事業における大規模混焼開始時期の前倒しについて | プレスリリース(2022年) | JERA

液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」

出典:川崎重工業株式会社「Kawasaki Hydrogen Road」

MCHを輸送する船

出典:千代田化工建設株式会社「ケミカルタンカーによる水素キャリア:メチルシクロヘキサン(MCH)の海上輸送実施」(2022 年 2 月 8 日発表)

アンモニア輸送船

出典:三菱重工業株式会社「三菱造船、アンモニアを燃料とする「大型アンモニア輸送船」の開発に着手商船三井、名村造船所と海事業界の脱炭素化で協働」(2021 年 11 月 4 日発表)

JOGMECのなすべきこと

 このように各キャリアーについてはある程度実証が終わってはいるものの、今後商業化に向けて課題を背負った形でのプロジェクト組成が必要な状況です。また、世の中に商業規模のバリューチェーンが未構築の現状では、事業開始自体にリスクがあります。JOGMECとしては、上流支援だけではなく、日本における貯蔵事業に対する支援制度も整備しながら、これら上流から下流に向けてのバリューチェーン全体に対してリスクを低減すべく、これまでの事業化調査のみならず、商業フェーズにおいても技術的・資金的なサポートを行う体制を構築しています。

CCS・水素事業部 施設技術課
新井 博久
早稲田大学大学院応用化学専攻終了
2009年入構、R&D部署、技術ソリューション事業等を経て、
2022年より現職。
現在、水素・アンモニアのバリューチェーンに係るスタディ等に従事。

※所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。

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