CCS推進事業 地下技術 インドネシア陸上油田におけるCO2圧入
インドネシア陸上油田におけるCO2圧入
JOGMECがインドネシア陸上の
CO2圧入実証試験に貢献
- POINT
- インドネシア陸上油田におけるCO2圧入実証試験の実施
- CO2圧入試験によるCO2-EORおよび CO2貯留効果の検討
- 本実証試験でJOGMECが得た成果
インドネシアの脱炭素に向けた取り組みと同国でのCO2圧入実証試験
脱炭素化に向けた取り組みは世界で進んでいます。インドネシアにおいても2021年7月に「低炭素及び気候レジリエンスに向けたインドネシア長期戦略2050」を発表し、2060年までにカーボンニュートラル(炭素中立)を達成することを表明しました。
しかし、この目標を達成するためにはいくつかの困難な課題を解決する必要があります。経済成長の著しいインドネシアでは、石油・天然ガスをはじめとする化石燃料の消費量が多く、2020年でエネルギー起源のCO2排出量が世界8位で約5.4億トンであったことが試算されています(注1)。今後もエネルギー需要は増大することが見込まれており、化石燃料への依存が継続することが予想されています。経済成長に伴う旺盛なエネルギー需要に対応しつつ、地球温暖化への対策を進めていかなければならないという新興国特有の課題に直面しています。
このような状況の中、温室効果ガスを大規模に削減する技術としてCCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage:CO2回収・有効利用・貯留)が注目されています。特に、油田にCO2を圧入することで原油の回収を増進すると共に、CO2を地中に貯留するCO2-EOR(Enhanced Oil Recovery:増進回収)は、米国などでは実用化されており、インドネシアでも大きなポテンシャルが見込まれます。
JOGMECは、インドネシアの国営石油会社であるPT Pertamina(Persero)およびPertaminaの子会社で油田操業などを担うPT Pertamina EP(以下、両者を併せて「プルタミナ」)と協力して、インドネシア国内の陸上油田に対するCO2圧入の実証試験を実施しました。本記事では、本実証試験の概要について紹介します。
【参考資料】
(注1)Greenhouse Gas Emissions from Energy Data Explorer
インドネシア・バリでの共同研究契約署名式の様子
出典:インドネシア陸上油田におけるCO2圧入(CCUS)の実施について:ニュースリリース|独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構[JOGMEC]
本実証試験の目的
CO2による原油の増進回収や地中貯留の効果は、CO2を圧入する地層(貯留層)の性状に大きく影響を受けます。自然の地層には全く同じものはなく、地域、地層が堆積した年代によってもその特徴が大きく異なります。そのため、実際に現地でその効果を確認することがとても重要になります。
今回紹介する実証試験では、インドネシア・ジャワ島西部に位置するジャティバラン油田において、原油を生産中の貯留層に対してCO2の圧入を行いました。試験の目的は、CO2による原油の増進回収および地中貯留に関する原位置での情報の取得になります。なお、本実証試験はプルタミナにとって初めてのCO2圧入となり、今後インドネシア国内のCCUSのポテンシャルを評価する上で重要な情報になると期待されています。
インドネシア、陸上ジャティバラン油田の位置
出典:「地理院地図/GSI Maps」より画像を加工して掲載
本実証試験で用いた手法と試験の流れ
本実証試験では、1本の坑井でCO2の圧入から生産までを実施するHuff & Puff法(ハフアンドパフ)と呼ばれる手法を用いました。CO2を地中に圧入し(Huff:ハフ)、地中にCO2を十分浸透させて油と接触させ(Soaking:ソーキング)、最後にCO2とともに原油を生産する(Puff:パフ)という3つのステップから成ります。本手法は、比較的少量のCO2で実施可能であり、小規模な実証試験において良く用いられます。
試験を通じてCO2圧入前後の原油の生産量の変化や圧入したCO2の回収挙動をモニタリングすることで、CO2圧入による原油の増進回収および地中貯留に関する情報を得ることができます。例えば、圧入したCO2は原油の生産と共に地上に戻ってきますが、一部はそのまま地中に取り残されます。CO2が地中に取り残されるメカニズムは複数ありますが、それらの評価に活用することができます。
なお、実際にCO2を圧入する前には多くの検討が必要になります。例えば、CO2をどれだけ圧入する必要があるのか、ソーキング期間はどれくらいにするのか、などを試験前に決定しておかなければなりません。そのために、本実証試験では、「貯留層シミュレーション」と呼ばれる技術を用いました。プルタミナ、JOGMECの技術者が貯留層の数値モデルを構築し、そこにCO2を圧入した場合にどのような挙動が起こりえるかを模擬的に予測することで、試験計画を策定しました。
ハフアンドパフ法の概念図
本実証試験により得られた成果と将来に向けて
策定した計画に基づいて、2022年10月下旬にCO2の圧入を開始しました。その後、計画通りにCO2を圧入し、ソーキング期間を経て、現在は生産を再開しています。なお、CO2圧入中や生産開始時はJOGMEC職員も現場に立ち合い、プルタミナの技術者と議論しながら、安全で効率的な現場作業の遂行に貢献しました。
本稿執筆時点(2022年12月)は、試験中に得られた圧力データや生産データを事前のシミュレーション結果と比較し、貯留層内で起きた挙動の理解のための評価作業を行っています。事前の予測とは異なる挙動も確認されており、実際に原位置で試験を行うことの重要性を再確認しています。
今回紹介した実証試験のような地道な努力の積み重ねがネットゼロカーボン社会の実現に繋がっていくと考え、アジア大でのCCUSネットワークの構築に尽力するとともに技術者交流も継続・強化します。
インドネシア・西ジャワの陸上ジャティバラン油田におけるCO2圧入サイト
出典:インドネシア陸上油田におけるCO2圧入開始について:ニュースリリース|独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構[JOGMEC]
- エネルギー事業本部 CCS・水素事業部 地下技術課
- 金島安洋
- 早稲田大学創造理工学研究科地球・環境資源理工学専攻を修了。
専門は貯留層工学。岩石試料(コア)を用いたEORスタディ、インドネシア陸上CO2圧入・貯留に関し貯留層工学視点での現場立ち合いと評価分析に取り組む。
※所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。