CCS推進事業 地下技術 CCSのPost closure monitoring
CCSのPost closure monitoring
貯留サイト圧入停止後及び
閉鎖後の
安全確保に関する制度
(カナダを例に)
- POINT
- 貯留層閉鎖・貯留CO2の管理責任移管が起こるまで
- アルバータ州政府の法令が求めるものと事業者の対応
- 法令・対応案が示唆するところと、これからのJOGMECの役割
貯留サイト閉鎖・貯留CO2の管理責任移管が起こるまで
CCSにおいて、目的のCO2貯留量に達すると圧入井*からの圧入を停止し、その後に圧入井は廃坑、CCSサイトは閉鎖となります。一方で、貯留したCO2が漏えいしないよう管理・監視する必要があります。しかし、永久に圧入・貯留事業者(以後、単に「事業者」と呼びます)が管理責任を負うことはCCSの事業化の観点から考えると現実的ではありません。日本国内において、圧入停止後及び閉鎖後のCO2の管理責任に関する法整備はCCSの事業化ひいては2050年のカーボンニュートラル実現に向けて喫緊の課題となっています。
諸外国ではこれらのCCSサイトの圧入停止後及び閉鎖後の管理責任について、図1のように一定の基準の達成(例えば、貯留実績・モニタリング実績に関する書類、閉鎖に向けた計画書の提出)により圧入CO2の管理責任を事業者から政府・自治体に移行する制度を敷いているケースがほとんどです。
そこで、本記事では、カナダ・アルバータ州(以下AB州)におけるQUEST CCS Project(以下QUEST)におけるCO2圧入停止後(Post Injection期)から管理責任移管後(Post Closure期)における州政府の諸制度及びそれらに対する事業者(QUESTの場合、Shell Canada Energy; 以下Shell)の対応事例について紹介します。
*:CO2を圧入するための坑井

図1:事業者から政府・自治体への貯留CO2管理責任移管の例
アルバータ州政府の法令と事業者の対応
AB州では貯留CO2の管理責任の移管は、州政府による事業者への閉鎖証明書(Closure Certificate)の発効をもって完了すると定められています。この閉鎖証明書の発効後の期間のことを「Post Closure期」とAB州政府は呼びます。すなわち、Post Closure期以前は事業者が、Post Closure期以降はAB州政府が貯留CO2の管理・モニタリングを実施します。
まずCO2の圧入終了時には、事業者が貯留サイトの閉鎖計画書(Closure Plan)を策定し、州政府の認可を求めます。AB州政府による具体的な閉鎖計画書に関する仕様は要約すると、「①圧入・貯留したCO2量」、「②圧入したCO2の位置・挙動を示す地質的・流体力学的データ」、「③各種施設の撤去・原状復旧計画」、「④行った事業・観測・提出書類の目録」、「⑤Post Closure期に政府が行うモニタリングの提案書」の5点となります。この閉鎖計画書の認可と、貯留CO2の保持能力を示す実測値の提出、各種施設の撤去・原状復旧を以て閉鎖証明書が発効されます。
一方で、(図2-a)にある通り、ShellはCO2圧入停止から閉鎖証明書発効までに更に閉鎖作業期間(Closure期)を定め、この期間に種々のサイト閉鎖作業と圧入CO2の貯留量・保持能力の評価に関するモニタリングを実施するとしています。
特に(図2-b)に示す通り、圧入井の廃坑までの期間をさらに3つの期間に分割しています。Early Closure期では圧入停止直後の圧入CO2の状態について、坑内の観測装置を用いることで貯留層内のモニタリングを行います。これにより、貯留層のCO2貯留能力、保持能力を調べます。Late Closure期ではまず貯留層の封鎖を行ないます。この後、この状態で遮へい層以浅の地層で、坑内の観測装置を用いてモニタリングを行います。これにより、貯留CO2が遮へい層から漏えいしていないことを確認します。ここでAB州政府の合意が得られれば、Shell側からAB州政府に圧入井を譲渡し、AB州政府は受け取った圧入井をPost Closure期の観測井**として使用可能となります。Full Abandonment期では前述の圧入井の譲渡がない限り、原則として坑内でのモニタリングは終了し、完全に圧入井を廃坑します。この段階で閉鎖証明書の申請及び発効が行われます。
また、その他の装置・地下/地上設備についても原状復旧を原則に撤去作業を行うとし、閉鎖計画書の提出の際にはモニタリング計画書(Measurement, Monitoring, Verification Plan; MMV計画書)の最終版の提出を以て閉鎖証明書の申請を行うとしています。
**:坑内でのモニタリング手法を実施するための坑井
<参照資料>
・Quest Carbon Capture and Storage Project CLOSURE PLAN 2020 version
・Shell Quest Carbon Capture and Storage Project MEASUREMENT, MONITORING AND VERIFICATION PLAN November 2020 UPDATE
・MINES AND MINERALS ACT Revised Statutes of Alberta 2000 Chapter M-17
・OIL AND GAS CONSERVATION ACT Revised Statutes of Alberta 2000 Chapter O-6
・CARBON SEQUESTRATION TENURE REGULATION Alberta Regulation 68/2011

図2-a:AB州政府とShellの示すPost Closure期までの各期間及び実施作業

図2-b:圧入井廃坑に至るまでの各期間の模式図
法令・対応案が示唆するところと、これからのJOGMECの役割
CO2圧入を継続している期間においては、CO2の漏えいリスクの監視の観点から、AB州政府は事業者に対してCCS事業権の付与のため、MMV計画書の提出及び3年毎の更新とモニタリング結果について年次報告の提出を義務付けています。このため、CO2圧入期間中は、圧入井坑内の温度・圧力の計測、4D弾性波探査***による貯留CO2の位置把握といった多角的なモニタリング手法を計画・適用するとShellのMMV計画書では記載されています。また、これらのモニタリング手法を実行することで大気中へのCO2放散量、地下水への溶解によるCO2漏えい量を監視するとしています。
一方で、Closure期ならびにPost Closure期においては、図3に示す通り、坑内での温度・圧力状態と微動の常時観測のみを主なモニタリング手法としてShellは計画しています。4D弾性波探査も計画にはありますが、あくまで必要に応じたものです。このClosure期ならびにPost Closure期におけるモニタリング計画で、ShellはAB州政府からの認可を受けています。
このように、圧入停止後のClosure期及びPost Closure期においては、「漏えいを防ぐための十分なリスク低減」を行う前提で、「事業者のモニタリングの負担軽減への配慮」も必要です。これら2つの両立は法制度整備やCCS事業の普及に向けた重要な課題であり、それはわが国でも同様です。JOGMECにおいても、CCSの事業化に向け、合理的かつ安全を確保できるClosure期及びPost Closure期における事業者への技術的・制度的な支援を行ってまいります。
***:圧入前の弾性波探査結果と圧入後での弾性波探査結果を比較することで圧入CO2の位置について観測する弾性波探査の手法
<参照資料>
・Quest Carbon Capture and Storage Project CLOSURE PLAN 2020 version
・Shell Quest Carbon Capture and Storage Project MEASUREMENT, MONITORING AND VERIFICATION PLAN November 2020 UPDATE
・MINES AND MINERALS ACT Revised Statutes of Alberta 2000 Chapter M-17
・OIL AND GAS CONSERVATION ACT Revised Statutes of Alberta 2000 Chapter O-6
・CARBON SEQUESTRATION TENURE REGULATION Alberta Regulation 68/2011

図3:AB州政府とShellの示すPost Closure期までの各期間及び実施作業(Shell Quest Carbon Capture and Storage Project MEASUREMENT, MONITORING AND VERIFICATION PLAN November 2020 UPDATE, Figure 4-4より引用)

- CCS・水素事業部 地下技術課 (併) 総括・国際連携課
- 渡邊勇介
- 京都大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻博士前期課程修了
専門は物理探査。モニタリング作業における技術的・制度的な観点からのCCS/CCUSの事業化のサポートに従事。
※所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。