CCS推進事業 地下技術 ジオメカニクスの活用

ジオメカニクスの活用

安定したCO2貯留のための力学的変動評価

POINT
安定的なCO2貯留の実現に貢献するジオメカニクス
さまざまな知見・要素技術を用いて地下の力学的変動を適切に予測

安定的なCO2貯留の実現に貢献するジオメカニクス

 CCSでは地下の地層に対して、CO2を高い圧力で圧入します。圧入されたCO2は、地層中の隙間を通って井戸から移動していきますが、この時、圧入前と比較して地層内の流体圧力(間隙圧)の変化が生じるため、地下における「力のつりあい」に変化が生じます。地下を構成している岩石によっては、この変化によって地下岩盤に大きな変形が生じて(以降、力学的変動と呼びます)、CO2の安定的な地下貯留に対して影響を及ぼす場合が考えられます。
 例えば、地層の強さに対して間隙圧の上昇量が大きすぎると、地層を破壊して割れ目が生じます。割れ目は地層よりも流体が流れやすいので、破壊を考慮していないCO2移動の予測結果は不正確になりますし、場合によっては予期しないCO2の漏えいが考えられます。また、CO2圧入によって、断層に働く力のつりあいが変化すると、断層を通じてCO2が漏えいしたり、断層の再活動によって地震が誘発されたりといったリスクがゼロではありません。
 CCSにおける事例ではありませんが、スイスのバーゼル=シュタット準州では、地熱開発事業に関連する水の圧入によって、人が感じられる規模(マグニチュード3以上)の地震が誘発された例が報告されています。そのため、この事業は中止されました。また、間隙圧の上昇によって、地層は膨張する方向に変形しますが、この変形が上部の地層を伝わり、地表面を隆起させることがあります。例として、アルジェリアのIn Salah CCSプロジェクトでは、CO2の圧入により年間で最大5ミリメートル程度の地表面隆起が観測されています。
 地下の力学的変動がどの程度になり得るかは、CO2の圧入量、圧入圧力、圧入深度といった圧入計画のデザインや、地下の断層分布、地層の厚さ、岩石の変形特性など、様々な条件に左右されます。また、地下の力学的変動に対するリスクの考え方も地上の利用状況によって異なると考えられます。条件によっては、全く問題にならないかもしれません。しかしながら、どのような条件下においても、まずは地下で起こり得る力学的変動の規模を予測することが、安定的かつ安全なCCSの実現に必要となります。その中で重要な役割を果たすのが、地球の力学、ジオメカニクスです。

CO2圧入による地下の力学的変動と起こり得るリスクのイメージ

さまざまな知見・要素技術を用いて地下の力学的変動を適切に予測

 では、ジオメカニクスを活用して、地下の力学的変動を予測するためには、どうすればよいでしょうか?
 まずは、地下の岩石が、力に対してどれだけ変形するか(変形特性)、破壊しやすいか(強度)といった情報を集める必要があります。これを行う方法の一つとして、地下から取得した岩石試料を用いた力学試験があります。力学試験とは、地下の力の状態を模擬できる特殊な試験装置(力学試験機)を用いて、岩石試料の変形特性・強度を測定する室内実験です。力学試験で得られたデータは、地層から直接的に得られた情報ではありますが、試験数は限られるため、広大な地下における「点」の情報に過ぎません。井戸データや、弾性波探査データといった、「線」や「立体」の情報と併せて解釈することで、地下の空間的な変形特性・破壊特性の分布をモデリングします。
 また、CCS実施フィールドの地下に働いている力についても情報を収集する必要があります。地下で採取した岩石を用いて直接的に測定できる「変形特性」・「強度」とは異なり、「力」の測定は簡単ではありません。なぜなら、「力」は「変形特性」・「強度」とは違い、地下から持ち帰ることができない情報だからです。「力」を測定する方法はいろいろありますが、測定したい深さの地層に水圧をかけて小さなき裂を作り、その時の水圧から地下に作用する力を評価する方法のほか、利用できるフィールド情報をもとに間接的評価を行うこともあります。例えば、井戸を掘った際に、地層の一部が崩れてしまったとします。地層が崩れた理由が力の不釣りあいによるものと仮定できれば、その場所に働いている力の大きさに対して、地層の強度が小さかった、ということができます。そのため、その場所での強度が得られていれば、働いている力を逆算することができます。
 CO2圧入による地下の力学的変動を詳細に検討するためには、やはり数値シミュレーションを実施することになります。シミュレーション実施のためには、岩石の変形特性、強度や地下に作用する力に関する理解のほか、地下構造の情報(断層の分布、地層の厚さなど)や、CO2の圧入挙動の予測結果を取り扱う必要があります。また、モニタリング結果が得られている場合、結果のシミュレーションへの反映も重要です。そのため、様々な知見・要素技術を取り扱う必要があるところが、ジオメカニクスを活用するうえでの難しさであり、同時にやりがいでもあります。

TRC所有の力学試験機の外観

技術部 開発技術課
山本和畝
京都大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻を修了。
専門はジオメカニクス。
これまでに、技術部開発技術課にて掘削中、生産中の坑壁安定性解析などジオメカニクス関連業務を経験。

※所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。

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