CCS推進事業 地下技術 坑井デザインと坑井健全性の評価

坑井デザインと坑井健全性の評価

耐CO2材を用いて漏洩リスクを最小化

POINT
坑井からのCO2漏洩リスクを評価
長期的な坑井の健全性を考慮した坑井デザイン

坑井からのCO2の漏洩リスクを評価

 石油・天然ガス鉱業において、地下の油ガスを生産したり、地下に流体を圧入するために坑井(こうせい、井戸)が掘削されます。坑井の掘削作業では、ある程度掘り進めたら掘った地層が崩れないようにケーシングと呼ばれる鋼管を坑井内に挿入し、ケーシングを固定するために地層とケーシングの間にセメントを送入・充填します。これらケーシングとセメントは地層の崩壊による坑井の埋没を防止するだけでなく、地層中の高圧流体が地上まで漏出することを防止するバリアとしての役割も担っています。
 CCS事業において地下に圧入されたCO2は高圧の状態で地層内に貯留されていますが、もし坑井のケーシングやセメントがバリアとして機能していない不健全な状態である場合には、坑井が経路となってCO2が地表へと漏出してしまう可能性が高くなります。そのため、CCS事業で利用される坑井は、CO2の漏出経路となってしまわないように確実なバリア機能を有することが求められます。
 CCS事業の中には枯渇もしくは減退した油ガス田にCO2を圧入するケースが多くありますが、このようなフィールドには油ガス生産のために掘削された坑井(既存井)が存在しています。一口に既存井と言ってもその種類は様々あり、油ガスの生産を継続しているもの、休止中のものや役目を終えて埋め立てられたものがあります。CCS事業で利用されるCO2圧入井や観測井(地下に圧入されたCO2が安全に貯留されているかを確認するための坑井)だけでなく、これら既存井も不健全な状態である場合にはCO2の漏出経路となり得てしまいます。そのため既存井についても、適切なバリア機能を有しているか、適切な埋め立て作業が行われたかなどを事前に調査して健全性を評価し、CO2漏出リスクが高いと評された坑井については健全な状態を回復させるための手当てを行うことが重要です。

坑井からのCO2漏出イメージ

長期的な坑井の健全性を考慮した坑井デザイン

 石油天然ガス鉱業における坑井を設計する際には、稼働期間、および地層流体に含まれることのあるCO2やH2Sなどの腐食性物質の有無等を考慮してケーシングやチュービング(油ガスを地表まで取り出す鋼管)の材質を選定しており、一般的な坑井寿命である30~50年の間は健全な状態を維持できるように設計されています。
 CO2はケーシングやチュービングなどに一般に用いられている炭素鋼に対して腐食性を有しているため、CO2含有率の高い油ガス田では、CO2腐食への耐久性の高いクロム含有鋼材を用いたケーシングやチュービングが使用されています。CCS事業においても、CO2圧入井や観測井などは貯留されたCO2に半永久的に晒されることになるので、長期的な坑井の健全性を維持するため耐CO2腐食性の高いクロム含有鋼材が使用することが基本となります。
 加えて、ケーシングを固定するためのセメントにおいても、油ガス坑井に一般に使用されているセメントはCO2に晒されることによって変質してバリアとしての機能を喪失する可能性があると言われています。そのため、CCS事業における坑井では耐CO2性能を向上させた特殊セメントを使用することにより、長期間に渡ってバリア機能を維持させることも重要となります。
 ここまでに述べた通り、CCS事業における坑井は従来の油ガス坑井と比べて長期間に渡って健全性を維持できることが重要であり、そのためには坑井設計において適切な材質・材料を選定することが求められます。

技術部 開発技術課
国内探査部 探査推進課
メタンハイドレート研究開発グループ 開発生産チーム
佐藤亮介
京都大学大学院工学研究科修了。専門は掘削技術。これまでに坑井掘削に係る研究開発業務や出資・債務保証に係る技術評価業務などの他、海洋掘削請負会社や海外の国営石油開発操業会社への出向を経験。

※所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。

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