CCS推進事業 地下技術 モニタリング/
モデルキャリブレーション

モニタリング/
モデルキャリブレーション

地下のCO2の挙動を把握する
~安全と環境のために~

POINT
FWIを用いた従来手法よりも鮮明な地下のイメージング
光ファイバーセンシング技術によるCO2挙動の把握
モニタリング結果と圧入挙動予測シミュレーションの比較による圧入挙動予測精度の向上

新たなアプローチによる地下のCO2の挙動モニタリング

 CCSでは、CO2を地下に長期間安定的に貯留できることを確認した上で、地下にCO2を圧入します。圧入したCO2がCO2貯留予測シミュレーションで予測した通りに地層に広がっているかを把握するために、圧入したCO2を対象にモニタリングが実施されます。このモニタリングは、仮に予測と異なる兆候があったとしてもいち早く検知して、リスクを回避できることにつながります。
 モニタリングには様々な手法があり、フィールドや条件などによって最適な手法を組み合わせて適用します。例えば、CO2の広がり(CO2プルーム)を把握するためには、4D弾性波探査手法*が適用されることが多く、北海や豪州などの事例の他、本邦においては苫小牧沖の事例でも報告されています。JOGMECでは、弾性波探査データを高分解能化するFull Waveform Inversion (FWI)の技術に着目した研究を行っています。従来の弾性波探査手法が地層境界からの反射波の情報のみを用いるのに対して、FWIは屈折波などを含む全ての波の情報を用いるため、弾性波がもつより多くの情報を活用することができます。FWIの適用によって、CO2の分布域が従来手法より鮮明にイメージングできることが期待されます。
 また井戸周辺のモニタリングとして光ファイバーセンシング技術が注目されています。光ファイバーを通過する光の散乱波の特性を活かして、温度やひずみを測定するものであり、CO2の到達や圧入に伴う変化をとらえることが期待されています。JOGMECでは、複数のフィールドにおいて光ファイバーセンシング技術で取得されたデータの解析を実施することによって、そのノウハウの蓄積を行っています。

*:圧入前の弾性波探査結果と圧入後での弾性波探査結果を比較することで圧入CO2の位置について観測する弾性波探査の手法

従来手法であるTraveltime tomography(左)とFWI(右)による地下の速度構造の比較。
(出典)Y. Nakamura, A. Kato, M. Nakatsukasa, T. Mouri, R. Kamei, D. Lumley and U.G. Jang, High-resolution Time-lapse Cross-Well Full Waveform Inversion for Successful EOR Monitoring in the Middle East, Conference Proceedings, EAGE Workshop on 4D Seismic and Reservoir monitoring: Bridge from Known to Unknown, Nov 2018, Volume 2018, p.1 – 2.

シミュレーションモデルのキャリブレーション~予測精度の向上を目指して~

 モニタリングによって得られた井戸近くの温度・圧力や地層内でのCO2プルームの情報は、CO2貯留予測シミュレーションによる予測結果と比較され、シミュレーションモデルの予測精度向上に使用されます。
 シミュレーションモデルの入力パラメータのうち、不確実性の高いパラメータを変化させ、計算結果とモニタリングによる観測結果のマッチングを行います。この過程は、ヒストリーマッチングと呼ばれ、油ガス田開発においては、油ガスの生産実績や井戸において取得した圧力データとマッチするように、モデルのキャリブレーション(補正)を行います。
 CCSにおいても、同様のアプローチを行いますが、一般的に、油ガス開発に比べてモデル構築に使用される信頼性が高いデータが少ないため、パラメータ設定の不確実性が大きくなります。また、4D弾性波探査によって得られたCO2プルームの形状のマッチングは、油ガス開発における油ガス生産量のマッチングと比べて格段に難しくなります。
 これに対して、JOGMECは、これまでの油ガス田開発の知見に基づいたアプローチに継続して取組むとともに、新しいアプローチに対する取り組みも始めました。通常の油ガス田開発に使用される流動シミュレータとは異なる、より簡素な物理モデルに基づいたCO2貯留予測シミュレーションを行うことによって、より広範囲なパラメータ値を高速に計算し、マッチング精度の高い入力パラメータを決定する手法に取り組んでいます。

油ガス田開発に広く使用されている商用シミュレータを用いたCO2プルーム形状のマッチング。CO2貯留予測シミュレーションによって得られたCO2プルームと、繰り返し地震探査による観測により推定されたプルーム形状の比較。
(出典) Akai T, Kuriyama T, Kato S, Okabe H. Numerical modelling of long-term CO2 storage mechanisms in saline aquifers using the Sleipner dataset (under review). 2021.

カーボンニュートラル推進本部 石油・ガス・CCSチーム
事業推進部 地質・物理探査課
CCS推進グループ 地下評価技術チーム
長谷川大真
名古屋大学大学院環境学研究科博士前期課程修了。
専門は物理探査で、事業推進部では主に震探解釈や深度変換などを担当。

※所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。

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