CCS推進事業 地下技術 CO2貯留予測シミュレーション

CO2貯留予測シミュレーション

地下への最適なCO2圧入シナリオと
長期安定性の追究

POINT
さまざまCO2貯留環境に応じた最適な地質モデリングの適用
CO2流動挙動を予測シミュレーションしCO2圧入計画をデザイン
数千年スケールでのCO2貯留安定性の評価

さまざまなCO2貯留環境に応じた最適な地質モデリングの適用

 安全かつ効率的にCCSを実施するには、それぞれのCCSサイトにおけるCO2の貯留メカニズムを理解し、最適な圧入計画を立てる必要があります。そのためには地質モデリング(地下の構造や性質を読み取り地下のモデルを構築する)とCO2貯留予測シミュレーション(地下のモデルの中でCO2がどう動くかを計算する)という2つの作業が欠かせません。これらの作業は、CCSサイトの地層の性質に応じて適切な手法を用いて行う必要があり、大きく分けて生産中の油田(CO2-EOR)、枯渇した油ガス田、帯水層、の3種類に大別されます。そして、JOGMECはそれらすべてを網羅する技術力を有しています。
 まず生産中の油田でのCCSは、油が貯留されている地層にCO2を圧入して石油とCO2を混ざり合わせることで、石油回収量を増やすことができます。その際、圧入したCO2の一部は地下に留まるため、CO2貯留の効果も同時に期待できます。JOGMECは、この技術に約半世紀取組んでおり、東南アジア、米国、中東、中央アジア地域等々のさまざまな地域の油層において、その実績を積み上げてきました。
 次に枯渇した油ガス田でのCCSは、油やガスが回収済みの地層にCO2を圧入することで実施されます。ここでの地質モデリングは、従来JOGMECが手掛けてきた油ガス田開発におけるモデリングと良く似ているものの、CO2の地層水への溶解や、岩石鉱物との化学反応などのCCS特有の要素を考慮したモデルを採用する必要があります。また油ガスが回収されて地層圧力が低下した状態から、CO2の圧入により地層圧力が回復していく過程でのCO2挙動をシミュレートする必要があります。
 最後に帯水層でのCCSは、水のみを含む地層へCO2を圧入するもので、紹介した3種類の中で最も油ガス田開発と異なる地質モデリングを行う必要があります。CO2の地層水への溶解や岩石鉱物との化学反応の他にも、CO2圧入停止後の時間経過とともに変化するCO2の貯留メカニズムを踏まえた予測シミュレーションを行う必要があります。
 このようなモデリングを通して地下の構造、性質を地質モデルにより再現します。

地質モデリング例
出典:平成28年度 石油開発技術本部年報45ページ 図6ゴルフォ・サン・ホルヘ堆積盆地のグリッドモデル

CO2の流動挙動を予測シミュレーションし地層に適した圧入計画をデザイン

 CO2貯留予測シミュレーションとは、前述の地質モデリングを用いて構築された地下のモデルに対して、CO2を圧入するとCO2がどのような挙動を示すかを計算し、将来のCO2分布や圧力の変化を予測する行為です。専用の高度な計算処理ソフトウェアを用いて何ケースも実施され、それぞれの地層に見合った最適な圧入計画を導き出します。
 このとき、CO2圧入井の本数、掘削位置、圧入深度、圧入する量などを、経済性や圧入効率を基準として決定します。従来の油ガス田の生産予測でもシミュレーションは行われますが、CO2の圧入においては、圧入したガスが地層の割れ目を通って漏洩しないような井戸位置の決定や、圧入井近傍で地層圧力上昇が地層破壊を引き起こさないように圧入量の設計を行うといったポイントに気を付けます。
 さらに、CO2圧入や貯留のリスクとなり得る地下情報(例えば地下でCO2を閉じ込める蓋となるはずの遮へい層の能力不足や、予想外のCO2の移動をもたらす可能性のある浸透性が高い地層の存在)を地質モデルにて加味する事で、様々なリスク要因下での最も効率的で安全性の高い圧入計画の立案を行うことができます。
 また、圧入計画のデザインにおいては、圧入井の坑内でのCO2の温度・圧力変化も考慮する必要があります。このような変化を数値計算で、地層内にCO2が効率的に入っていくための適切な温度・圧力条件から、地上設備のデザインを行うことができます。
 これら一連の作業を通じて、現実的で安全な圧入計画のもとでのCO2貯留可能量を決定することができるのです。

CO2流動挙動予測シミュレーションの例
出典: Akai T, Kuriyama T, Kato S, Okabe H. Numerical modelling of long-term CO2 storage mechanisms in saline aquifers using the Sleipner dataset (under review). 2021.

数千年スケールでのCO2貯留安定性の評価

 圧入したCO2は、数千年に渡って、安定的に地層にとどめておく必要があります。通常、油ガス田開発が対象とするのは100年以内の流体挙動ですので、これまでJOGMECが油ガス田開発において経験した知見を超えて、その安定性を評価する必要があります。
 例えば帯水層へCO2を圧入する場合、圧入先の深度まで掘られた井戸を通じてCO2を高い圧力で地層の中へと送り込みます。圧入されたCO2はまず井戸からの圧力勾配に従い、井戸から離れるように貯留層内を水平方向に流動していきます。同時に、CO2は周囲の地層水より密度が低いため、浮力によって上方にも移動します。この上方への移動は、水平方向移動に比べてスピードは遅いものの、圧入停止後もずっと継続して起こります。周囲にCO2が内部を移動できないほど隙間が小さく緻密な岩盤がない場合、時間の経過とともに浮力による移動が進行し、非常に広範囲に渡って圧入CO2は広がっていきます。その一方で、ある一定量のCO2は移動の過程で地層を構成する砂粒子同士の間の極めて小さな隙間の中に閉じ込められます。また同様にCO2が移動する過程で地層水と接触する事で、地層水中にCO2が溶解していきます。地層水中に溶解したCO2分子は、それ自体、水溶液中に拡散して広がっていきます。この拡散現象は、非常にスピードの遅い現象であり、通常の油ガス田開発の時間スケールでは問題になりませんが、数千年の時間スケールでの安定性を評価するCCSにおいては重要な検討要素の一つです。
 このように異なるスピードで進行する複数のCO2移動、貯留メカニズムのもと、CO2の貯留安定性の評価を行っています。

複数の地下構造想定とそれに伴う貯留シナリオの変化 ― 貯留安定性の検討
図中の赤点は深度1,000メートル程度に位置するCO2の圧入ポイントを示す。色の箇所はCO2の貯留位置を示す。地下で折り重なる地層の緻密さを3パターン想定、パターンによって圧入したCO2の地層内での移動は大きく異なる。
出典:Akai T, Kuriyama T, Kato S, Okabe H. Numerical modelling of long-term CO2 storage mechanisms in saline aquifers using the Sleipner dataset (under review). 2021.

CCS推進グループ 地下評価技術チーム
栗山毅士
九州大学大学院工学府修士課程を修了。
大学ではCCSにおけるCO2漏洩モニタリングの研究に取り組んでいた。
専門は貯留層工学。

※所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。

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