CCS推進事業 地下技術 地下貯留層評価
地下貯留層評価
『不確か』な地質状況を、
より『確か』にモデル化する!
- POINT
- 地下深くの地層の情報を分析する
- 貯留層の試料を用いた岩石物性を測定する
- 地層や岩石などの様々なデータを用いて地下の空間的分布をモデル化する
地質状況を把握する様々な技術
地下評価の次のステップは、選定されたCCSサイトが、どのくらいの量のCO2を貯留できるかを正確に把握することです。そのためには、地下約1,000~3,000メートルに存在する地層から様々なデータを取得し、解析を行います。まず、井戸を掘削し、その中に様々なセンサーを吊り下げて物理検層データを取得します。このデータを解析することで、地下にどのような岩石(砂岩や泥岩など)が存在し、どれくらいの厚さがあるのか、また、岩石中の空隙の割合(空隙率)がどのくらいなのかがわかります。その際に、井戸から採取した岩石試料を対象に実施したラボ分析結果を統合することで、解析の精度を向上させることができます。このようにして、貯留層や遮へい層の特性を定量的に評価します。次に、井戸で把握した貯留岩や帽岩が水平方向にどのくらいの範囲に分布しているかを、弾性波探査データを利用して調べます。また、弾性波探査データの解釈からは、地下に存在する断層も精度よく把握することができます。断層は、地下に貯留したCO2が漏洩する経路になる可能性があるため、CO2貯留エリアは断層を避けて選定する必要があります。
このように、井戸データ、岩石試料データ、地震探査データを統合的に解析・解釈することで、CO2貯留可能量を推定するために必要なパラメータを導きだします。
地震探査データの解釈例。地下の地層境界面から反射した地震波を解析することで、数キロメートルにわたる地層構造を把握する。
出典:加藤文人・ロバート ステュアート、2012:AVOインバージョンによるオイルサンド貯留層の砂岩分析予測:石油技術教会誌第77巻第1号28-41頁
『不確かさ』を低減して地質状況を再現する
前述の弾性波探査の解釈や、井戸データ、岩石試料の分析データを統合して地質モデルを構築します。地質モデルとは、コンピューター上で地下の地質状況を再現したものです。地質モデルを利用した予測シミュレーションに基づいて、貯留層中のCO2の流動や貯留可能量を評価するため、目に見えない地下を、より『確からしく』地質モデルとして再現しなければなりません。しかし、貯留層の存在や空隙率などの物性データは井戸が掘削された地点でしか正確に把握できず、それらの空間的分布は非常に『不確か』です。そのため、地球統計学と呼ばれる手法を用いて統計的に推定します。また、貯留層の堆積環境もこの不確かさを低減させる重要なデータになります。例えば、河川の環境で形成された砂岩層が貯留層である場合、川の流路に沿って砂岩が分布する可能性が高くなるためです。
このように、利用できるデータと、その性質をよく分析し、『不確か』な部分は統計的に考えて、その時点で最も『確か』な地質モデルを作ります。そして、新しい井戸が掘削された場合などは、追加取得された地質データを加えて、常に地質モデルをアップデートしていくことが重要です。
地質モデルの例。利用可能な地下データを統合し、岩石物性の空間的分布を再現する。
出典:Kato et al. 2017,Sweet spot mapping in the Montney tight gas reservoir: SPE Abu Dhabi International Petroleum Exhibition & Conference, Abu Dhabi, UAE.
CO2の流れを透視する!?
CO2がどのように貯留岩の中に浸透していくのか(流動特性)を理解することは、CO2貯留可能量を正確に算定することに加えて、地中貯留の安定性や圧入計画を立案する上で非常に重要です。またこの流動特性は、岩石の種類や温度・圧力の条件によって異なるため非常に複雑ですが、JOGMECがこれまでの50年間の油ガス田開発で培ってきた独自の分析技術が活きてきます。例えば、多様な温度・圧力条件のもとで岩石試料にCO2を流動させ、その流動過程を医療用のCT装置や、より高解像度で撮影できるマイクロフォーカスX線CT装置を使用することで、流動特性を直接目で見て理解することが可能になります。
このような実験の蓄積と分析に基づいて得られた知見を、地質モデルに統合してCO2貯留予測シミュレーションを行うことで、地下に貯留したCO2の流動を高精度に予測することができ、長期間にわたって安定的にCO2が貯留可能かを検討することができます。
左:地下の地層状態を模擬した高温・高圧環境下で実施されたCO2/水の二相系流動試験。コア内部のCO2分布状態を医療用CT装置により3次元可視している。
出典:Okabe H, Tsuchiya Y. Experimental Investigation of residual CO2 saturation distribution in carbonate rock. Int Symp Soc Core Anal.2008:2-7.
右:マイクロフォーカスX線CT装置を利用して得られた岩石の空隙構造。取得した空隙構造を利用して測定に時間を要する実験などをシミュレーションで補間する。
- 技術部 EOR課
- 塩田絵里加
- 熊本大学大学院自然科学研究科博士課程を修了。
専門は貯留層工学。
マイクロX線CT画像解析を用いたコア試料の貯留層特性評価やEORスタディに取り組む。
※所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。