CCS推進事業 地下技術 CCS対象構造の絞り込み

CCS対象構造の絞り込み

目に見えない地下の世界を『見通す』技術

POINT
CCSサイトに適した地質や対象を理解する
あらゆる技術やデータを総動員して地下を『見通す』!

CCSに適した地質条件とは?

 CO2を地下に貯留するためには、地表面や海底面から1,000メートル以上深い地質であること、多孔質の地層(貯留層)が存在し、貯留岩が泥岩などの不浸透性の地層(遮へい層)で覆われていること、十分な貯留容積を有していること、これらの3つの地質条件が求められています。その理由は以下の通りです。
 CCSでは、CO2を超臨界と呼ばれる液体と気体の両方の性質をもつ状態とすることで、効率よく地層に貯留することができます。超臨界状態にするには高い温度・圧力が必要となります。そのため、CCS貯留サイトは、生活用の地下水層よりも深く、地層圧力が高くなる地下1,000メートルよりも深い地質が適しています。次に、CO2は、主に、岩石中の隙間に貯留されるため、砂岩や炭酸塩岩のように多孔質かつ浸透性のよい貯留岩が存在しなければなりません。また、不浸透性の遮へい層が貯留層を覆うことにより、貯留されたCO2が上方へ漏れることを妨げます。最後に、計画しているCO2貯留量を十分に賄える貯留容積が求められます。CCSサイトは、これら3つ全ての地質条件を、必ず満たしている必要があります。

CCSに適した地質条件(出典:Global CCS Institute)

CO2貯留層の候補は?

 では、先ほど説明した3つの地質条件を満たしていて、CO2を圧入する候補となり得る対象にどのようなものがあるのでしょうか?
 まず、枯渇した油田やガス田が候補となります。油田やガス田は、石油や天然ガスを長い間貯留していた実績があるため、当然、CO2の貯留にも適していると考えられます。また、油ガス田の探鉱、開発、生産の中で豊富に地質データが取得されていることが多く、より正確にCO2貯留可能量を把握することが可能になります。このように、石油や天然ガスの生産が減退した枯渇油ガス田は、CCSの有望な対象の一つとなり得ます。
 また、3つの地質条件が揃ってさえいれば、石油や天然ガスの貯留されていない地層、いわゆる帯水層もCCSサイトの候補となり得ます。帯水層は、世界中の広い地域に存在していることからCCSへの利用に適している一方で、枯渇油ガス田に比べて、地質データに乏しいことがほとんどであるため、十分な事前調査に基づいて地下の地質状況を推定し、CCSに適した帯水層を見つけ出す必要があります。
 その他、石油天然ガスの開発業界では、油田に取り残された石油をさらに増産するために、CO2を油田に圧入するということもあります(CO2-EOR)。この場合、圧入した一部のCO2はそのまま地下に貯留されることから、CCSとしての側面も持っております。

CO2の貯留対象。1:帯水層、2:CO2-EOR、3:枯渇油ガス田 (出典:Global CCS Institute)。

どのようにCCSサイトを見つけるのか?

 CCSに適したサイトを広大なエリアから絞り込む作業は地下評価の最初のステップです。そのためには、利用できるデータを総動員して、目に見えない地下の世界を見通す技術が必要となります。この技術は、油ガス田の探鉱・開発事業に求められる技術と同じであり、JOGMECがこれまで世界中で行ってきた油ガス田に関わる地下評価で蓄積されたノウハウや地質データが非常に役に立ちます。
 目に見えない地下を見通す技術の一つとして、反射法弾性波探査があります。これは、お母さんのお腹の中にいる赤ちゃんをエコー検査で見る技術と同じで、地球に対してエコー検査を行うものです。これによって、広範囲に地下の地層の形を把握することができ、条件さえ良ければ砂岩や泥岩の分布なども推定することが可能になりますが、エコー検査で赤ちゃんの詳細な情報が分からないのと同じように、高解像度に地下を見ることは得意ではありません。一方で、地下にどのような地層が存在するかを直接目で見て正確に知る唯一の方法として、井戸のデータがあります。しかし、高解像度な井戸データも広大な調査範囲の中では、『点』や『線』の情報に過ぎず、それだけで周辺の地質状況を知ることはできません。そこで、反射法弾性波探査データと、井戸データを組み合わせて、『ある程度』の解像度で広域の地質状況を見通せるようになります。このデータを組み合わせる上で重要なのが、周辺地域でこれまで調査・研究されてきた地層形成にかかわる基礎研究データです。この基礎研究データから、対象とする地層はどのような環境(例えば河川、浅海底、深海底など)で堆積し、どのくらいの広さまで繋がっている地層なのかがイメージできるため、反射法弾性波探査データで把握した地層の形に沿って、井戸データの『点』や『線』の情報を周辺に拡張することが可能になります。
 ここで紹介した技術は、ごく一部の代表的な技術ですが、利用できるあらゆるデータを総動員して、見えない地下を見通すことが、私たち地質技術者の腕の見せ所になります。

地下データの統合イメージ.
出典:
(1) Madon and Azlina (1999).
(2) Wong Hin Fat (1999).
(3) Asiah Mohd Salih and Mohd Fauzi Abdul Kadir (1995).

CCS推進グループ 地下評価技術チーム
技術部 探査技術課
島野恭史
千葉大学大学院理学研究科博士前期課程修了。
国内の石油・天然ガス調査事業のほか、
出資・債務保証に係る技術評価・プロジェクト管理業務、国内大学院留学を経て、
現在はCCSにおける地質評価業務に従事。

※所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。

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