CCS推進事業 国際連携 ASEANのCCS動向

ASEANのCCS動向

進むASEANのCCS社会実装

POINT
ASEANでは化石燃料が引き続き主要エネルギー源として見込まれ、CCSへの期待が高まっている
近年、ASEAN各国のCCS事業環境整備が急速に進展
ASEANの脱炭素化へ向けて、JOGMECは包括的な取り組みを推進中

ASEANのエネルギー安定供給と脱炭素を支える技術、それがCCSです

 ASEAN(*1)は過去20年間目覚ましい経済成長を遂げ(*2)、世界経済成長の主要な原動力となっており、今後もエネルギーの需要増とそれに伴うCO2排出量の増加が見込まれます。ASEANで最も多くCO2を排出する産業セクターは、電気・熱(38%)、工業(23%)、運輸(24%)(*3)であり、脱炭素化にはこの3つの部門から排出されるCO2の削減が必要です。そして、ASEANの一次エネルギー消費量に占める化石エネルギーの割合は約85%で、IEAの現行政策シナリオ(STEPS)では、2030年までのエネルギー需要増加の4分の3は化石燃料でカバーされるとされています。そこで鍵となるのが CCS です。
 ASEANには枯渇油ガス田と塩水帯水層での高いCO2貯留ポテンシャルがあり、さらにこの地域には石油・ガス生産の熟練した労働力、既存のサプライチェーン、CO2輸送に再利用可能なパイプラインや圧入井などのインフラがあるため、ShellやExxonMobilといった石油メジャーをはじめとする世界中の企業がASEANに注目しています。また、シンガポールとマレーシアを中心に、CCSのハブ&クラスター(*4)実現に向けた動きも活発化しています。こうした民間セクターの動きとあわせて、2021年ごろから各国政府がCCSの事業環境整備を急速に進めており、早期の CCS 社会実装が期待されています。

*1 東南アジア諸国連合。加盟国は現在 10 か国(ブルネイ・ダルサラーム、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)。
*2 2002 年から 2022 年の 20 年間で、GDP が約 5 倍に増加。 (データ出所:IMF)
*3 データ出所https://www.irena.org/Data/Energy-Profiles
*4 複数の CO2 排出源と貯留地を繋ぐ、CO2 を効率的に輸送・貯留する効率的なサプライチェーンの形態

各国で進むCCSの事業環境整備

 下表はASEAN7か国のCCS関連政策の整備状況一覧です(2023年3月現在)。インドネシアでは2023年3月にASEANでは初となるCCSに特化した大臣令(*1)が発表されました。この大臣令では、探査からサイト閉鎖までの各開発フェーズでの手続き、CO2 の貯留責任(ライアビリティ)、MRV(測定、報告、検証)、国有財産の使用、緊急時の対応などが規定されています。タイではCCSロードマップが策定され、2023年中に許認可や責任移管を含む規制が発表される予定です。マレーシアでは、全国的なCCS法規制はまだ存在しないものの、2022年にサラワク州でCCS法が制定されました。マレーシアでは国営石油会社のペトロナスが同社の貯留容量の40%を外国に開放することを明言しており(*2)、外資の投資意欲を高めています。今回の州法の策定を受け、CCSプロジェクトのFIDと早期の社会実装が期待されます。ASEANでは、法制度整備と並行して、カーボンプライシングの導入も進んでいます。
 このように、各国で事業環境整備に進展がみられますが、将来的には排出されたCO2が国境を越えて移動する可能性が高いため、各国の制度に大きな乖離が生じないよう、ASEAN全体でのルールの協調と連携が重要です。たとえば、ハブ&クラスター化し、複数国のソースからCO2をある国に持ち込む場合、現状ではCO2排出国、受け入れ国の何れかがロンドン議定書を締約している必要があります。現在ASEANの多くの国はロンドン議定書を締約していませんので、非締約国が他国のCO2を貯留する場合、議定書に沿った許可体系の整備や輸出側の許可体系を準用することへの同意など、貯留にあたって定められた要件を満たす必要があります。ASEANには、経済共同体(AEC)の発足により地域全体の国際競争力が飛躍的に向上したという歴史があります。CCSの分野でも地域間連携を深め、協働で事業環境整備に取り組むことが、地域の脱炭素化の実現に大きな役割を果たすでしょう。

出所:GlobalCCSInstitute作成の表(*3)を和訳し、一部JOGMEC加筆

*1 炭素回収・貯留の実施及び石油・天然ガス上流事業活動における炭素回収・利用・貯留に関するインドネシア共和国エネルギー鉱物資源大臣令2023年第2号。筆者注:本法案に関する具体的な実施内容や方法などは別途規定されるものと推察される。
*2 https://www.upstreamonline.com/field-development/malaysia-revs-up-carbon-capture-and-storage-developments/2-1-1159919
*3 https://www.globalccsinstitute.com/news-media/insights/south-east-asia-ccs-accelerator-seaca/

JOGMEC は、ASEAN の持続可能なエネルギー供給に向けて様々な取り組みを進めています

 JOGMECは、日本政府が進めるAZEC(アジアゼロエミッション共同体)、AETI(アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ)の下、ASEANでのCCS社会実装に貢献するべく、国内外のステークホルダーと連携して様々な取り組みを行っています(下図)。

 たとえば、インドネシア国営石油会社のプルタミナとMOUを締結し、CCSと水素・アンモニア製造の分野で顕密に連携を進めています。2022年には、プルタミナと共同でインドネシア・西ジャワ州の陸上ジャティバラン油田でCO2圧入の共同研究を開始し、減退油ガス田でのCO2-EORとCO2の地中貯留効果を検証するため、CO2 Huff and Puff試験(注)を実施し、成功しています。また、マレーシア国営石油会社ペトロナスとはMOUを締結し、CCS技術を適用したガス田開発に関する共同スタディを実施しています。ベトナム国営石油会社ペトロベトナムとの間でもMOUを締結し、CCSの事業化に向けた協働を進めています。
 人材育成の観点では、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムの4カ国を対象に「エネルギートランジション研修」を開催しました(2023年2月~3月)。各国の政策関係者をJOGMEC技術センターに招聘し、関連講義やディスカッションを行いました。この他、東南アジアCCS適地スクリーニングスタディの実施・公表や、CCS由来のカーボンクレジットに関する国際ワークショップの開催など、様々な取り組みを進めています。
 最後に、JOGMECは、アジアCCUSネットワークのアドバイザリーメンバーとして、ロードマップ策定やキャパシティ・ビルディングに積極的に取り組んでいます。特に、CCSガイドライン、CO2-EORガイドライン、CIガイドライン、CCSクレジットハンドブックをツールとして、域内の制度・ルールの協調にも貢献していきたい考えです。

(注)本稿は2023年5月現在の情報に基づき執筆されました

ロンドン事務所副所長
西岡さくら
2013年入構。
資源外交、経営企画等の業務を経て、2021年よりCCSと関連プロジェクトの政策・制度的課題の調査・検討、国際連携を担当。
2023年9月より現職。博士(社会科学)

※所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。

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