CCS推進事業 国際連携 若手技術者からのメッセージ
若手技術者からのメッセージ
ミライを担う技術者を目指して
- POINT
- 若手技術者から見た石油開発業界のミライ
- 新たな技術とともにCCS業界を支えていく
2050年の予想図
河野 日本国政府が宣言した「カーボンニュートラル」を目指す2050年、世界のエネルギー需給はどうなっているのでしょうか。エネルギー供給源に関する長期見通しの統計資料を見ると、エネルギー需要は増加するも、石油や天然ガス資源の占める割合は減り、再生可能エネルギーによる供給が増えると予想されています。しかし、それでも石油や天然ガスの生産がゼロになるわけではなく、引き続き重要な資源として認識されています。
一方、パリ協定で目標として掲げられている「2℃目標」を達成するためには、世界中が今までよりも温室効果ガスの排出削減に向けた努力を行うことが求められています。
石油・天然ガス開発業界が「エネルギー需要の増加」「温暖化効果ガスの削減」という2つの命題を両立させるには、CO2を排出しない石油天然ガス開発、つまりCCSの適用は重要な役割を担います。現在は石油天然ガス開発やそれに付随する水素・アンモニア製造の際に排出されるCO2をCCSによって貯留する事業が検討されていますが、今後は、石油・天然ガス開発に伴って排出されるCO2のみならず、他の排出源からのCO2も回収し、地下に貯留することでカーボンニュートラル、さらにはカーボンネガティブな資源開発に取り組むことが求められます。
石油や天然ガスは世界中の人々の生活・経済活動を支えてきました。これからも重要なエネルギー源であるとともに、クリーンエネルギーを届けるという新たな使命を担っていると感じます。
石油開発業界の動向とCCS
長谷川 近年は石油・天然ガスの探鉱活動が減少傾向にあります。これは近年の油価の低下に加えて、探鉱・開発コストに見合うだけの生産量を持つ油ガス田が少なくなってきていることに起因しています。また、水深が深い場所にある、貯留層の構造が複雑であるなどの開発リスクが大きい油ガス田が増加していることも要因の1つです。カーボンニュートラルな社会に向けて石油・天然ガスの需要が低くなると、この傾向がさらに加速していくことが予想されるため、今後は新規の油ガス田の発見よりも既存鉱区の周辺の油ガス田の探鉱・開発が主となっていくと考えています。
また、カーボンニュートラルを目指していくうえで、将来的には石油・天然ガスの開発で生じるCO2をどのように減らしていくかを考える必要があります。具体的にはCCSを伴う油ガス田開発が必須となっていくことが予想されます。そのため、現在業界ではCCSへの関心が高まっており、CCSへの取り組みが増加しています。石油開発のために長期にわたって磨かれてきた地下技術をCCSへ活かしていくことが、今後の石油開発業界におけるカギになっていくと考えています。現在JOGMECは貯留サイト調査、モニタリングなどにおいて既存の地下技術の知見を活かしながらプロジェクト支援に携わっています。また、CO2貯留予測シミュレーションにおいても新たな知見の確立を目指しており、将来的に技術力でCCSを牽引していけるような組織になることを目標としています。
新しい技術に携わることへの期待
長谷川 現在は石油開発業界の過渡期であり、昔よりも業界が大きな利益を獲得することが難しくなっていくと考えられます。しかしながら、私は石油開発業界の若手技術者として、新たな取り組みに挑戦する良い機会に恵まれたと考えています。
私の専門である物理探査の技術は、CCSにおいて地下に貯留したCO2や井戸の状態を把握するためのモニタリングの技術として活用されています。例えば、同じエリアに対して時間間隔をおいて地震探査を行う、繰り返し地震探査という手法で地下のCO2の分布を把握するというアプローチが取られます。この技術は従来の石油開発に用いられてきた地震探査の技術を発展させたものです。このようにCCSにおいては、従来の石油開発で用いられてきた地下技術が応用されています。ただし、石油開発で取り扱う石油・天然ガスとCCSで取り扱うCO2では振る舞いが異なるため、よりCCSに適した新しい技術を目指す必要があります。新しい技術の例としては、光ファイバーを用いて地下の貯留層や井戸の状態をモニタリングする技術が挙げられます。繰り返し地震探査や光ファイバーを用いたモニタリングは私がこの業界の技術者となる前に確立された技術ですが、今後まだ見ぬ新しい技術が登場することに期待しています。私自身も新しい技術の開発に携わる技術者になりたいと考えています。
また、CCSの黎明期から携わっていくことで、CCS業界を支える技術者の一人になりたいという思いもあります。現在の活動は今後のキャリアを積んでいく上で自信につながるのではないかと考えているので、様々なことに積極的に取り組んでいきたいです。
若手技術者として ~次世代への橋渡し~
河野 我々はエネルギーの過渡期にある中で、今後石油天然ガス開発業界で活躍する若手社員は持続可能な社会に向けた「次世代への橋渡し」という重要な役割を担っていると感じます。それを実現するため、新しい技術やコンセプトを取り込み、既存のCCSをより効率的に、効果的に実施する方法を模索するべきだと思います。地上の技術に携わるエンジニアとしては、石油天然ガス開発に伴って排出されるCO2の分離・回収技術をさらに磨くべきと考えます。CO2の分離・回収・貯留は、開発事業にとっては追加のコストをかけて行うものなので、より高効率、安価、省エネルギーな方法でCO2を回収することで、事業の経済性を保ちながらCCSも推進できると思います。
また、個人的には、自然の力から学ぶところが大きいと思います。これまで地球がバランスを保ってこられたのも自然の力(自浄作用)によるものですが、これを応用できないかと考えています。たとえば、光合成。今はCO2を地中に貯留する取り組みがなされていますが、人工光合成が実現すれば、CO2を有価物として扱うこともできるはずです。
エンジニアとして、CO2分離・回収プロセスの効率化もさることながら、最適な分離・回収技術の提案や新規技術の開発支援、そしてそれを実現できるパートナーの発掘、協業も重要な役割です。「餅は餅屋」というように、それぞれの良いところを活かしながら、シナジーを発揮してエネルギー業界の未来を拓いていけたらと思います。
- カーボンニュートラル推進本部 石油・ ガス・CCSチーム
事業推進部 地質・物理探査課
CCS推進グループ 総括・国際連携チーム - 長谷川大真
- 2019年入構。
現在 CCS推進グループ 地下評価技術チーム 併任
専門は物理探査
- CCS推進グループ 総括・国際連携チーム
- 河野裕人
- 2015年入構。
現在 CCS推進グループ 施設技術チーム 併任
専門は化学・プロセス
※所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。