CCS推進事業 国際連携 諸外国の事業環境動向

諸外国の事業環境動向

CCS事業化のための
制度的課題を紐解く

POINT
日々アップデートされる世界のCCS推進政策・制度の分析
CCSプロジェクトの許認可・認証の掘り下げ
資源外交で構築したネットワークを、CCSの事業環境整備へ活用

世界各地のCCS政策・制度を分析する

 パリ協定で合意された2℃目標(注)達成のために、2050年にはCCSで年間40億トンのCO2を削減しなければならないとされています。一方で、2020年現在、世界で稼働中のCCSプロジェクト(図1)のCO2回収量合計は年間約4,000万トン。つまり、あと約30年のうちに年間回収量を100倍にする必要があります。
 そこで、国際的にCCSの普及を進めて、エネルギーの安定供給と気候変動対策を両立させていこうというモメンタムにありますが、CO2を地下に貯留するには大きな追加コストがかかります。このためCCSの事業化には、技術開発に加えて、政府による制度的な後押しが不可欠です。具体的には、温室効果ガス排出量規制などの気候政策、許認可制度、ファイナンス制度(税優遇、補助金など)ですが、これらは、国・地域によって大きく異なります。社会受容性や植林などの他のオフセット政策の動向も、CCSの事業化見通しのための重要なファクターです。
 CCSは石油・ガス生産に伴い発生するCO2を削減し、世界のカーボンニュートラルの実現を推進します。しかしながら、いまのところ確立したCCSのビジネスモデルは存在せず、これまで30を超えるプロジェクトが制度的障壁を超えられず、中止しています。プロジェクトの推進のためには、社会全体の構造とその変化を大きく捉えること、関連する政策・制度の精緻な理解、多様なステークホルダーの動向の把握が求められます。
 日々変わりゆく各国の事業環境を把握し、プロジェクトへの影響を短期的・中長期的に検討し、日本企業の事業推進に役立てることが、JOGMECの一つの役割です。

※注 産業革命前からの世界の平均気温上昇を 2℃未満に抑える目標。

図1 世界のCCS施設

出所 Global CCS Institute -Global Status of CCS 2020

CCSプロジェクトの許認可・認証制度を掘り下げる

 総括・国際連携チームで重点的に調査を進めているのが、諸外国の許認可・認証の動向です。事業者は、プロジェクトの各フェーズ(図2)で、国などの制度管理者から許認可を取得しますが、許認可取得のためには、プロジェクトの計画が妥当である、という認証を受ける必要があります。
 しかし、CCS事業の認証に国際的に統一されたルールは存在していません。ISOスタンダードは認証のためのひとつの根拠となりますが、これに沿って各地でより詳細なガイドラインが策定され、日々整備が進んでいます。どのガイドラインに基づき、誰が認証するかは、プロジェクトの実施国の制度設計と認証を受けようとするフェーズによって異なります。CCSの第三者認証をビジネスチャンスとみる動きもあります。
 CCSプロジェクトでは、サイト選定、分離・回収・圧入・貯留、閉鎖の各フェーズにおいて技術的認証がなされます。事業設計にあたっては、これらのフェーズすべてにおける許認可や認証制度の仕組みと、その根拠となる技術的文書の包括的な理解が必要です。なかでも、私たちはCO2貯留性の評価と認証をプロジェクトの価値を推定する上で重要な領域であると捉え、関連するガイドラインの具体的な運用の把握と、技術的課題の抽出を進めています。
 日本企業のCCS事業の後押しのために、JOGMECは、制度管理者側、事業者側の両方の視点で、各地の許認可・認証制度の動向と課題の知見を蓄積しています。これを活用することで、日本企業のCCS事業の展開を後押ししていきたいと考えています。

図2 CCSプロジェクトフェーズ

資源外交で構築したネットワークを、事業環境整備に活かす
~CCS外交の展開へ~

 日本企業の事業推進にあたっては、制度管理者側である相手国政府とのコミュニケーションがきわめて重要です。JOGMECはこれまで、石油・天然ガス、金属、石炭、地熱、それぞれの分野で資源外交を長年推進し、外国政府等との確かな関係を構築してきました。
 CCSの技術的、政策・制度面での知見に加え、諸外国との関係を最大限に活用したCCS外交を積極的に展開することにより、日本企業が参画するCCS事業の環境整備に貢献し、ひいては日本、そして世界のカーボンニュートラルに貢献していきたい考えです。

カーボンニュートラル推進本部 総括・企画チームサブリーダー
CCS推進グループ 総括・国際連携チーム サブリーダー
西岡さくら
2013年入構。資源外交、経営企画等の業務を経て、2021年より現職。
CCSプロジェクトの政策・制度的課題の検討を担当。博士(社会科学)。

※所属・役職及び本記事の内容は執筆時点のものです。

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